今日は「落ち込み(うつ)を『すぐ』治してくれる薬は?」というテーマでお話しします。
結論から言うと「万能薬」は存在しません。
「うつを治してほしい」「この不快感を治してほしい」という患者さんの気持ちはよくわかるのですが、それをすぐに治してくれる薬はありません。
「サプリはありますか?」「これを食べたら治りますか?」なども聞かれますが、そういったものもありません。ないので僕ら医師がいて、やれる範囲のことをやるのです。
これで話は終わりと言えば終わりですが、続いて精神科の薬にはどのようなものがあるかを解説します。
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精神科の薬
精神科の薬は無限にあるように見えますが、もちろんそうではありません。
大きく5つに分類されます。
・抗精神病薬
・抗うつ薬
・気分安定薬
・抗不安薬・睡眠薬
・その他
抗精神病薬
抗精神病薬は主に「統合失調症」の人に使う薬です。
作用としては、ドパミン系をブロックすることで、衝動性や幻覚妄想を抑えます。他の要素もありますが、主に「ドパミンをブロックする薬」だと覚えてください。
・その他の使い方
メインで使われるのは統合失調症ですが他にも色々な作用があり、双極性障害のうつ症状にも効くことがあります。
また、スパイスのような形でうつ病の増強療法にも使用されます。うつ病の治療の基本は抗うつ薬ですが、抗うつ薬単体だと効果が弱い場合は、増強療法として抗精神病薬を入れます。
発達障害の感覚過敏の緩和に対して使うこともあります。
抗うつ薬
抗うつ薬は文字通り「うつ病」に使います。
不安障害の人の体質改善(不安を感じにくくする)にも使われます。
効果が出るまでに時間がかかりますが、1ヶ月ほど飲んでいると効果が出てきます。
抗うつ薬は気軽に出されているかもしれませんが、10代の患者さんに使う場合は、自殺のリスクを上げると言われているため慎重になる必要があります。
双極性障害の場合は基本的に出しません。これは躁転してしまうためです。
気分安定薬
では、双極性障害(躁うつ病)の人にどのような薬を出すかというと、気分安定薬です。
リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、カルバマゼピンといった薬ですが、カルバマゼピンは最近は使いません。
リチウムは、躁うつ病の躁とうつ両方に効果があります。
バルプロ酸は躁状態に、ラモトリギンはうつに効きます。
バルプロ酸とラモトリギンは「てんかん」にも使用します。
うつ病の増強療法にも使用されます。
抗不安薬・睡眠薬
抗不安薬と睡眠薬をまとめたのは、同じベンゾジアゼピン系の抗不安薬、ベンゾジアゼピンの睡眠薬があるためです。
この薬の特徴は「即効性」です。
お酒に似ていて、リラックスさせて眠気を出してくれます。ですが、一時的なものなので病気の根本的な治療にはなりません。ちょっと症状を緩和してくれるものです。
レスキュー的には使いますが、治療の本質ではありません。
また、依存性もあるので長期使用は危険と言われています。
とはいえ、あまり不安を煽っても仕方がありません。アルコールよりはよほどマシです。毎日お酒を飲んでいる人は大勢いますから、それよりは遥かにマシです。
その他
漢方では、「補中益気湯」は元気を出すために使います。
認知症の人の落ち込みの場合は「ドネペジル」が効いたりします。
発達障害の人のうつはコンサータ、ストラテラ、インチュニブで良くなると思われるかもしれませんが、基本的には抗うつ効果はなく、これらの薬で原疾患が良くなるから結果的にうつが良くなるということになります。
コンサータは覚醒剤の仲間なので、コンサータを飲めば楽になるのではないかと「今落ち込んでいるのでコンサータを増やしてください」と言う患者さんもいますが、そのようなことはしません。
今回は精神科で使われる薬5種類についてお話ししました。
僕ら医療従事者も落ち込むことはあります。ですが、落ち込んだからといって薬は飲んではいません。
病気に対して薬は効きますが、人間関係で嫌なことがあったなど、普通の落ち込み、傷つきには効かないからです。
万能薬は存在しませんので、そこは理解していただけたらと思います。
意地悪で出さないのではなく、薬を出し過ぎするとその人が副作用で苦しむことになるから出さないのです。
患者さんに「ネットでこういう薬を見ました(出してください)」と言われても出さないことはあります。そういう時に「益田はケチだ」と思うかもしれませんが、そういうことではなく、副作用で困るから出さないし、言われても断るのです。
今回は「落ち込みをすぐ治してくれる薬は?」について解説しました。
薬について
2021.9.2