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うつ病になると疲れやすくなる? 疲労について解説

02:32 疲労をごまかすメカニズム
06:36 デキサメタゾン抑制試験
08:35 病的疲労と治療

今日は「うつ病になると体が疲れやすくなりますか?」という質問にお答えします。
この話はややこしいので、ゆっくり聞いてください。

「うつ病になると疲れやすくなりますか?」というのは、質問としてちょっと答えにくいのです。

まずそもそも、疲れています。現代人は結構疲れている人が多いのです。
動物園の動物を見てもらうと、子猿なんかは遊びまわっていますが大人の動物は結構寝ています。あれが普通です。
人間は脳の肥大化によって、なぜか疲れていても疲れを感じずに動けるようにシステム化されていますが、同じ動物なので、のんびり過ごすのが自然かなと思います。

ですから、そもそも疲れているのですが、多くの人は疲れを感じていません。
メンタル疾患のある人は、「疲れを感じなくさせる機能」が破綻しています。ややこしいですが。
加えて疲れから回復する機能も落ちています。回復が遅いから疲れが取れないということです。

ですから、うつ病になると疲れやすくなるということはありません。
「うつ病になると疲れが回復しない、疲れを誤魔化すこともできなくなっている」というのが回答になります。

今回この動画を撮るにあたり、精神科の教科書などを調べ直しました。
教科書レベルだとうまく言葉が見つからなかったのですが、慈恵医大の先生が監修されている「疲労ちゃんとストレスさん(にしかわたく画・近藤一博監修 河出書房新社)」という漫画が分かりやすいので、そこに教科書的なものをプラスアルファすることで解説してみようと思います。

疲労をごまかすメカニズム

体を使ったり頭を使ったりすると疲れます。
疲れるとタンパク質の合成が落ちたりして、体の疲れなどのダメージをくらいます。

疲れが溜まると、疲労因子によって頭の中で炎症性のサイトカインというものが出ます。信号だと思ってください。それが起きるので脳に疲労感を感じます。

疲労感が出るので、休むことでサイトカインを除去し疲れを取るのですが、人間の場合はこの疲労感をごまかすメカニズムがたくさんあります。

例えばコルチゾールと呼ばれる副腎皮質ホルモン、アドレナリン、カフェインが挙げられます。

・カフェイン
わかりやすいのはカフェインです。
コーヒーやエナジードリンクを飲むと、疲れが取れた感じがします。「元気になります」と商品の広告ではあります。

ですが、あれは疲労は取れません。
疲労は取れないのですが、疲労をごまかすことはできます。
疲労感を抑えこみますが、実際はダメージはあります。カフェインを飲むことで一時的にごまかすことができているだけです。

・アドレナリン
集中をする、やりがいを感じる、不安に駆られてアドレナリンが出る時。

集中力が高まっているときは疲労感を感じません。
目の前にリンゴがなっていて採りにいかなければならない時に、「疲れたからもういいや」となっていたら餓死してしまいます。
あとちょっとでウサギが捕まえられる、牛を捕まえられる、という時に「疲れたからいいや」となったら飢え死にしてしまいます。
「ここぞ」という時に、ぐっとアドレナリンが出るのです。

ライオンに追いかけられた時も「疲れたからもういいや」となると食べられてしまいますが、不安に駆られてアドレナリンがぐっと出て、疲れをごまかして逃げることができます。

・コルチゾール
コルチゾールが出ると疲労感を抑えこむことができます。
アドレナリンと同じようなメカニズムです。

コルチゾールはちょっとややこしいです。
視床下部から下垂体刺激ホルモンというものが出ます。
視床下部から下垂体に信号を出し、下垂体からACTHという副腎皮質刺激ホルモンが出て、そこから副腎が刺激され、副腎皮質からコルチゾールが出るというメカニズムです。

うつ病の患者さんは、ここら辺が常に動いている、常に高い、亢進していると言われています。

デキサメタゾン抑制試験

これを利用してうつ病かどうかを調べる「デキサメタゾン抑制試験」というものがあります。

コルチゾールのようなものを投与すると、健康な人は「コルチゾールが多いな」といってACTHやCRHが下がります(ネガティブフィードバック)。下がった場合は抑制されたので正常だということがわかります。
ところが、普段から高い状態だとちょっとコルチゾールが増えたぐらいでは変わりません。ACTHやCRHが抑制されないとうつ病だとわかるという試験があります。

でもこれの試験は感度・特異度があまり良くありません。うつ病ではない人でも値が下がらないことがあるため一般化していません。

そのため、コルチゾールとCRHの両方を入れる試験もあります。ACTHが抑制されれば健康、ということになります。
実際にはこのような試験はほとんど行われないので余談になりますが…。

何が言いたいかというと、普段から疲労が溜まっていて炎症性のサイトカインが出ていて、脳に疲労感があるけれど抑え込まれているということです。

病的疲労と治療

常に疲労が出ているので、常に脳にダメージをくらっています。
脳にダメージをくらっているので神経細胞がやられていきます。細くなっていくというイメージです。
細くなっているので今度はいざ休もうとしても全然休まりません。それを「病的疲労」と言います。

健康な人の場合は「生理的疲労」といって、疲れたなとなっても寝たり休みをとれば回復します。
うつの人になってくるとちょっと寝ても休まりません。それはなぜかというと、脳にダメージをくらっていて回復機能が弱っているからです。

では治らないのかというと治ります。

ストレスがない環境に行ってきちっと休息を取る。質の良い睡眠をとる。アルコールをとらない。
それからSSRIなどの抗うつ薬を飲みます。抗うつ薬を飲むことでセロトニンが増え、体質改善のような形で成長因子が出てきて脳の回復が早まります。
それで健康になっていきます。

ややこしい話をしましたが、結論はそれほど複雑なことではありません。

コーヒーなどを飲んでいるのは、疲れをごまかしているだけなのでしっかり休まないとダメで、薬を飲んだ方が回復が早まるということです。

実際どのように疲労というものが研究されているのか、どこまで医学でわかっているのかという説明を受けたことがある人は少ないと思いますので、今回の動画で説明してみました。
僕も診察室でこのような話をしたことがなかったので、調べなおして勉強になりました。

今回は、「うつ病になると身体が疲れやすくなる?」ということをテーマにお話ししました。

【参考】
東京慈恵医科大学ウイルス学講座「最新!疲労・ストレス講座 5」
https://jikeivirus.jp/episode5/

日薬理誌「うつ病と副腎皮質ステロイドホルモン受容体」
(吾郷由希夫,田熊 一敞,松田 敏夫)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/134/6/134_6_304/_pdf


2021.10.9

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