訂正:感情に関係するところは中脳ではなく大脳辺縁系です
今日は「親に悩んでいる人と診察室で話すこと」についてお話しします。
親の話というのは、虐待を受けていたからだけではなく、うつ、不安障害、不眠症の人なども時々お話しされます。
虐待を受けた人はそれが治療のメインになりますが、そうでなくてもやはり親のことを語るということは、精神科領域では治療上必要です。
日常の会話の中では、恋人や奥さんには話すかもしれませんが、改めて自分の親について喋ることはありません。
ですが、精神科はそういうことを話す場所でもありますし、どういうものなのかを紹介しようと思います。
診察室で交わす会話は二言、三言かもしれませんが、親のことを考えるのは思考のトレーニングにもなりますし、自己理解、他者理解、社会理解にも役立ちます。
ですから患者さんには親について考えることをおすすめします。
コンテンツ
家系図
僕らは初診の時に家族歴を取ります。
心理社会背景として、どのような家族だったのか、どのような生い立ちだったのかを聞き取ります。
その時に、ホワイトボードのような家系図を書きます。
□男性
○女性
兄弟だと左にあるのが年上
◎本人
初診の時にすべてを聞くことはできませんが、精神科の通院は半年、1年、数年に及ぶこともありますので、少しずつ聞いてサマリーとして足していきます。
どのような話をするか
<祖父母の人生、両親の人生>
実際どのような話をするかと言うと、まずは祖父母の人生、両親の人生などです。その時に時代背景もあわせて考えると奥行きが出ると思います。
親も子供から大人になり、だんだん中年になって太ってきて、高齢になって、老人になって亡くなります。人生はそういうものです。
所々で怖かった親もいつかは丸くなる、若いときには悪さをしていた親も自分が物心つく頃にはずいぶん丸くなっている、など色々なパターンがあります。
このように全体として理解することが重要です。
この時に、時代背景も加味しなければなりません。
今の時代から考えると「あれは変だよ」「それってひど過ぎるよ」と思うかもしれませんが、当時としては親が子供に手をあげつつも教育するのが一般的だった。戦争があった時代だから、祖父母は攻撃的で心がすさんでいて、その祖父母に育てられた自分の親だからこうだったなど、加味することは色々あります。
このようなことを考えると、許せとは言いませんが、理解が深まるのではないかと思います。
<印象的なエピソード>
自分が子供の時に親とこういう会話をした、こういう嫌な目にあった。10代や高校生の時にこうだったなど色々な話をします。
自分のエピソードを話したらまた祖父母や両親の話になったり、いろいろなところをランダムに話していきます。
少しずつ話しながらだんだん全体が埋まっていくという感じがあります。
なぜ治療に役立つのか
これがなぜ治療的に役立つのかというと、自分、他人、社会を理解していくことで次の対応がしやすくなる、新しく出会った人とのトラブルが減る、うまくいなせるようになるといったこともありますが、過去を上書きする、記憶やストーリーを書き直していくことで、自分の心を変えていくことができるからです。
性格や人格は変わっていく
人間の心は脳みそが作っています。
脳みそにはロジックに考える部分(前頭葉)もあれば、感情を生み出すところもあります(大脳辺縁系)。海馬や側頭葉は、記憶やストーリーに携わるところです。
この辺がガチッと組み合い、全体で「心」は浮かび上がってきます。
その一部である「記憶」が変わっていけば、心は変わっていくのです。
僕らの性格や人格というのは変わっていきます。
ただ漠然とした「怖い」だけのものから理解が深まっていき、「嫌なものだけれど、扱えなくはないもの」に変えていくことで成熟が起きます。
ロジックなところは勉強や訓練でやりますし、感情を扱う部分はある意味薬だったりします。
記憶やストーリーの部分はカウンセリングでやっていきます。
今回は、診察室ではこんな話もするということで紹介してみました。
一言、二言しか語られないこともありますが、そのような言葉をキャッチして見る。
「親が嫌だった」「自分はこんなに苦しかった、悲しかった」という自分の今の感情の話だけ広げても治療はうまくいきません。
そこを受け止めた後に、親はどんな人だったのか、過去のストーリーはどうだったのかというところに話の流れを持っていき、そこをブラッシュアップしていくことで治療が進んでいきます。
親子問題
2021.10.19