今日は「ライフサイクル」についてお話しします。
人生の中で、どの年齢の時にどのような病気を発症しやすいのか、どのようなテーマで精神疾患が現れてくるのかというお話をします。
よく「中長期的に考えた方が良い」と言われますし、僕も動画の中で「どのような人生を送りたいですか?」とたまに言っています。
このようなことが頭の中にある人は良いのですが、意外とないかなと思いましたので動画にしてみます。
精神科の患者さんは今で必死なので、先のことを考えられないですし、考えると嫌な気持ちになってしまうと言います。そうと言えばそうですが、それなりに考えた方が良い事はたくさんありますので、この動画で考える機会を提供できたらと思います。
ホワイトボードにある数字は年齢です。
左から、祖父母・両親・自分・子供・孫・ひ孫となります。
未来を想像したくないというのは、子供の時に親を見ているとあまり良いイメージが湧かないということがあります。そういったことも話そうと思います。
コンテンツ
1歳~10歳
1歳~10歳くらいまでの間によく出てくるテーマは「発達障害」や「知的障害」の問題です。
他には親からの虐待の有無、貧困によってきちんと教育を受けられずネグレクトのような状態になっている、ということがよく出るかと思います。
実際、子供のうつ病、不安障害、統合失調症というのは稀なケースです。
どちらかと言うと、小児精神の世界では発達障害・知的障害と虐待という家庭内の問題がメインになります。
10代
10代になってくると、いじめ、引きこもり、思春期葛藤、ヤングケアラーの問題が出てきます。
ヤングケアラーとは、祖父母の世話を子供たちが行い、そのせいで自分の勉強ができない、自分のために時間を使えない、家の中で無理をしている。両親に精神疾患があり、親の代わりに家事をしているといったケースです。
ヤングケアラーという言葉から、介護をしている、祖父母の世話をしているという印象を受けやすいのですが、実際には親の精神疾患が多いです。アルコール依存症、ギャンブル依存症、両親の不仲、そこからくる鬱など多くあります。
子供は親を憎むことはなかなかできないので、親に愛されたいので親のために動いてしまう、機能不全家族を維持できるように家事をする、親のために一生懸命やるということがヤングケアラーの問題です。よくある問題です。
また、思春期心性で上手くいかず、摂食障害のようになってしまうこともあります。
これも発達障害が絡んでいることが結構あります。
20代
20代になってくると、普通の人は自己実現や恋愛について悩むと思います。
(ホワイトボードの青文字は普通の人のラインです)
女性は性暴力を受けてトラウマやPTSDになってしまう、貧困から性産業でしか働けず性暴力を受けてしまうということが結構あります。
20代の発症が多い精神疾患は躁うつ病や統合失調症です。このような精神疾患も人口の1~2%発症します。
人格障害が明らかになってくるのも20代になってからだと思います。
30代
30代になると祖父母が亡くなって、両親も高齢になってきます。子供も産まれたりします。
一般的なことだと、35歳が転職をするのに一番良い年頃と言われます。
妊活問題もあります。35歳以上だと高齢出産に該当しますので、妊活を考えたりします。
この辺りはよく出る悩み、相談事です。
パワハラやセクハラなどで適応障害になりやすいということもあります。20代からありますが。
40代~50代
40代、50代になると発症しやすい精神疾患が変わってきて、うつ病が発症しやすくなります。
依存症も問題として表面化しやすくなります。
この年代でよく相談されるのは、離婚、介護、子育て、孤独の問題です。
30代の時も子育ての問題は出てきますが、子供が小さい時の問題と思春期の問題では違います。
小さい時はただ単に労働量が増えるという感じですが、思春期になってくると子供の心も扱わなければいけませんし、場合によっては発達障害や知的障害の問題も扱わなければいけません。
逆に自分が虐待の加害者になっていることもあります。
そのような話が精神科ではよく出ます。
30代までは自分のことに一生懸命でしたが、この年代は自分以外のことですごく振り回されるようになってきます。
60代~
60代以降はやはり身体疾患が多くなります。
精神疾患でなく、体の病気もどんどん出てきます。
80代、90代になってくると認知症の問題が出てきて、それらを精神科で診ることが多くなります。
このように見ると、人生は長いような短いような感じです。
相談相手
40代~50代は悩みが多いというか、扱わなければいけない問題が多い年代です。
仕事の責任も増えてきて悩むことが多くなります。
ですが、相談相手が多い年齢でもあります。
30代までは結構孤独で人に相談しにくかったりしますが、40代~50代は周りも成熟してきて友達などが相談相手になります。治療がトントンとうまくいくのは、相談相手がいるからということもあります。
ですから同じ適応障害でも30代までの場合とは違ってきます。
逆に治りにくい適応障害の人は、相談相手が少ないパターンで孤独の問題が絡んできます。
独身、結婚はしているが家庭内別居のようになっているなど。このような人付き合いの問題も出てきます。
子供や若者は40代、50代の人と比べると相談相手がいません。
周りの友達も相談相手になるほど成熟していませんし、知識、経験、ノウハウもないので相談相手として機能しません。
ですから、20代、30代の人の場合は、一般的な相談相手としての役割を治療者が果たすことが多いです。
40代、50代になってくるとそのような役割は減って、普通に病気の説明をしたり雑談で僕が教えてもらうことも多かったりします。
中長期的に考える
中長期的に考えるという点で僕が意識していることをお話しします。
2025年になると団塊世代が75歳以上になるので、医療費が増えどんどん高齢化社会が進みます。
2035年にはEV車のみになるという話がヨーロッパで出ています。
EV車(電気自動車)というのは、単純に言うと「車のパソコン化」です。
車のIT化を目処に、家電などあらゆるものがインターネットにつながっていくようになると思います。
今の世の中の流れとしては、高齢化が進んでおり、カルチャーとしても高齢化が進んでいくと思います。
あわせて、IT化が進んでいきます。
日本の産業構造は変わらなければいけないし、日本が得意としていたものが上手くいかなくなる可能性があるなと思います。
もう少し細かく言うと、
・ロボット技術の向上
・全てのものがオンラインに繋がる
・生命科学の進歩(治らなかった病気が治り、寿命が延びる?)
といったことがあります。
ライフサイクルを意識する
患者さんと話している際の「中長期的にものを見る」とは、このライフサイクルをどれくらい意識できているかということです。
自分は20代だからこのような悩みなのだ、今自分はこの年代だけれどこのようなことが起きているのだ、などそのような話をよくします。
このような視点がある人とない人では治療の進み具合が違うと思います。
今回は、年齢別の精神疾患の発症のしやすさ、ライフサイクルについてお話ししました。
前向きになる考え方
2021.11.7