本日は「うつ病の誤解を解く」というテーマでお話しします。
コメントを見たり初診の患者さんを受けているときに「他の病院ではうつ病と診断されて薬だけ出されていたのですが、私はうつ病ではないと思うんです。これなんじゃないかと益田先生の動画を見て思いました」という訴えをされる方はたくさんいらっしゃいます。
確かにうつ病ではない人をうつ病と診断して薬だけ出すクリニックはゼロではないと思います。
逆に診断はうつ病で合っていて、薬を出すだけで良かったりすることもあります。
今回はそのことについてお話しします。
コンテンツ
うつ病とうつ状態
まず、うつ病とうつ状態は違う、ということです。
「うつ状態」というのは落ち込んでいる状態、身体のエネルギーが落ちている状態です。
元気や集中力が出ず、死にたい気持ちが出たり不安だったりすることをうつ状態と言います。
よくインターネットで「うつ病チェック」などがありますが、それは何のチェックをしているのかというと、うつ病ではなくてうつ状態のチェックをしているのです。
うつ状態は色々な病気が原因でなるものです。
ここにあるものが全部そうです。
甲状腺機能低下症、いわゆる普通のうつ病、適応障害、燃え尽き症候群(バーンアウト)、不安障害、発達障害、境界知能、境界性パーソナリティ障害、トラウマ、PTSDの人、依存症、アルコール依存症でも「うつ状態」になります。
何でもかんでもうつ状態にはなるのですが、脳の病気が原因で周期的にうつ状態を繰り返すのが、「うつ病」というものです。
そもそもの定義というかそういう風に考えられています。
実際に薬が効いたりするところからも、うつ病というものは多分あります。
臨床的に「こういうものがうつ病なんだろうな」という漠然としたモヤッとしたものがあり、僕らはわかるのですが、でもこれを実際の定義にしようとすると、なかなか難しいです。
皆にわかるように定義しようとすると、DSM5やICD10(ICD11)のような操作的診断と呼ばれるものに変わって、10個中8個~9個の症状があれば、うつ病ということになります。
そうすると、それ以上の定義はできなかったりします。
でも実際はもうちょっと違うというものがあります。
なかなか定義が難しいので誤診というか、そういうものがあったりします。
あまり上手く説明できた気がしませんが、とにかくうつ病とうつ状態は違う、ということです。
うつ状態を起こす病気
<身体疾患>
うつ状態を起こす病気にはどういうものがあるかというと、例えば身体の病気が原因でうつ状態になるものがあります。
代表的なものでいうと「甲状腺機能低下症」です。
これは動画に撮っているのでもし良かったらご覧ください。
首の両側に甲状腺というものがあります。首の柔らかい部分です。
これが元気を出すホルモンを出しているので、その機能が低下するとうつになります。
最近ではコロナの後遺症で、感染後に落ち込むということがあります。
コロナが良くなった後もしばらく元気が出なくて気分が滅入ることが起きます。
が、だいたい良くなります。
認知症によってうつっぽくなることも結構あります。
身体が原因でうつっぽくなること、エネルギーが落ちることは他にもあり、このカテゴリーに入れるべきかどうかは微妙ですが、産後うつ、疲弊感やホルモンバランスの変化でうつっぽくなったり、PMDD、生理前にうつになるのは、身体の影響と言えば身体の影響です。
<内因性疾患>
もうちょっとよく分かっていないけれど、脳の病気で気分のアップダウンがあったり、下がる時期があるものが、うつ病です。アップダウンと言えば双極性障害だったりします。
統合失調症も幻覚妄想が落ち着いた後にうつっぽくなるので、同じ内因性疾患にカッコ付きで入れておきました。
<疲労・ストレス>
疲労やストレスが溜まって元気が出ないこともあります。
適応障害、燃え尽き症候群(バーンアウト)などです。
内因性疾患と疲労・ストレスの差はどういうものかが患者さんはよく分からなかったり、質問されることがあります。診断が難しいと言ったりもします。
これも説明が難しいです。
内因性疾患は脳の病気、疲労・ストレスはストレスによる、とざっくりした言い方をしますが、考えれば考えるほど、それは定義として上手く説明できていないことがわかります。
ただ、臨床というのはそういうものだったりします。
まだまだ脳科学はわかっていないですし、哲学的な定義の厳密さが大事というわけでもないので、ここら辺は似ていますが分けたりしています。
ホワイトボードの赤線の上に関しては薬や休養で良くなったりします。
ある意味、薬だけ出しているような治療でも悪くなかったりします。
精神療法、カウンセリングが有効なもの
でも、もう少し自己理解や深い理解が必要なことがあり、それが赤線より下の領域になります。
いわゆるカウンセリング的なもの、精神療法だったり、心理士さんのカウンセリング、自助団体、何でも良いのですが、僕がYouTubeで伝えているようなこと、疾病教育が特に重要なのは、赤線よりも下の話です。
<体質>
体質の問題で不安になりやすい人です。
・不安障害
体質的に人間関係が苦手、人間関係で起きる恥ずかしい思いや対人不安で人付き合いを避ける人、社交不安障害や回避性パーソナリティ障害の人、そういうことが原因でうつっぽくなったりします。
・発達障害
人と同じことができない、人の気持ちを読むのが苦手、会話が苦手、マルチタスクが苦手、忘れ物が多い。
・境界知能
皆と同じことがちょっとできない、相対的に苦手なことが多い、他の人よりも相対的に知的に弱いところが多かったりするので困るパターン。
・境界性パーソナリティ障害
感情の起伏が激しく、情緒のコントロールが他の人より苦手、相手を誤解しやすい人。
・生まれつき体力がない人
障害があるような人も体質的な問題があってうつっぽくなりやすいです。
こういう人たちは、治療としては、特異な自分と現実の社会との折り合いをどうつけるのか、というのがポイントかなと思います。
精神科というのは、特殊な体験をしてきた人たちがいる、ということです。
その特殊さというのは、他の人が経験したことがあるものとは違います。ですから、うつの時はこうしろ、うつ病はこうしたら治る、ということを持論で語る人がたくさんいますが、それは良くないと思います。
やはり一個一個全部理由が違うので、特殊さや特異さも全然違います。
だから「これだからこれ」ということにはなりません。
一人一人が結構違うので、解決方法も人それぞれ違います。
<生まれた後の経験や環境>
生まれつきの問題はなくても、生まれた後にトラウマや虐待など記憶に何か悪いものが植え付けられて人生を楽しめない、うつっぽくなりやすくなっている人たちもいます。
こういう人たちは心的外傷(記憶)とどう向き合っていくのか、どう受け入れていくのか、どう上書きしていくのか、ということが治療のポイントです。
こういうことが原因となりうつになることもあります。
体質の問題の場合は薬で改善することもあります。体質の問題なので。
記憶の問題の方は薬ではなかなか上手くいかないので、今でもカウンセリングは有効だったりします。
依存症
うつの問題から自分なりに解決しようと思って誤った解決策を採ってしまった結果、依存症のようになってしまうパターンもあります。
・自傷行為
自傷する瞬間は楽になるので、嫌なことや辛いことがあったりすると自傷する以外の解決策が見つけられなくなり、そればかりやって自分を傷つけてしまう人たち。
・過食
食に走る人たち。過食嘔吐、摂食障害というパターン。
・性依存症
性的な体験でしかストレス発散ができない、何か困ったことがあるとみんなに良い顔をして、隠れてHな場所に行って自分の暴力性を発揮する、そこでストレス解消をするパターン。
・アルコール、ドラッグ、ゲーム、ギャンブルの依存症
それが止められずうつっぽくなっているパターン。
こういう人たちは依存症の治療をしなければいけません。
同じようなうつという症状があっても、結構違うということがあります。
問診の段階で、患者さんが赤線より下の話を喋れないということもあります。初診でそういう話をしても良いのか?という問題もあったりするので、頃合いを見て話したり、体質や記憶の問題を扱うということもあるのですが、薬だけではない、ということはよく知ってもらいたいと思います。
自分の気持ちを言語化する
診断して薬を出すというのは、医者の中では治療の8割を占めるということもあり、患者さんは薬を飲むだけなのですが、やはり治療の中で体験しなければいけないこは、左下の赤で囲まれた部分に書かれたことかなと思います。
自分の気持ちというのはどういうものなのかを概念化してく、言語化していく作業。
自分が何を考えているのかというのが曖昧としていて訳がわからなくて、整理ができなくてぐちゃぐちゃしているのですが、これを整理していく作業はとても重要ですし、整理をしていく中で整理の仕方を覚え、自分の感情をコントロールすることができるようになります。
自分の感情をコントロールするためには、他人の気持ち、他人がどうやって自分の気持ちをコントロールしているのか、他人は自分のことをどう思っているのか、他人はその人自身のことをどう思っているのか、ということも学ぶ必要があります。
自分の中で色々やっていても答えは見つかりません。
あの人はどう考えたのだろう、この人はどう問題解決をして行くのだろう、身近な人から歴史上の人まで色々な他人があると思います。
そういうことを知っていくことが重要ですし、もちろん医学的な知識も重要です。
誤った情報の整理の仕方ではダメで、科学的に考えていく、スピリチュアルな世界に入るのではなく、いわゆる医学的な常識、科学的な常識で整理していくことが重要です。
きちんと知識を持つことも重要だったりします。
うつ病と診断されているが実はうつ状態の診断で、実際の問題は体質や記憶、依存の問題なのではないか、という人は結構います。
でも薬だけで治療していこう、うつ病という診断だけで薬だけで治療していこうという治療者側の願いというか欲望というか、そういうものもあったりします。
それではあまり上手くいきません。
なので、うつになり得る原因をざっくり概説しました。
今回は、うつ病とうつ状態は違う、という話を中心に、色々な疾患のパターンを解説しました。
うつ病
2022.3.4