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発達障害(ASD/ADHD)の方のメモの取り方

00:53 メモを取るには複合的な機能が必要
07:39 メモの取り方

本日は「発達障害(ASD/ADHD)の人のメモの取り方」について解説します。
メモをどうやって取るのかということと同時に、作文やレポートについても言及します。

発達障害は、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)の3つに分けることができます。
このうちASDとADHDは合併することが多いので、発達障害(ASD/ADHD)と一つにして解説します。

メモを取るには複合的な機能が必要

メモをどうやって取ればいいですか、と臨床で良く聞かれます。
僕も外来の診察室でどうやって答えたら良いのか、いつも頭を悩ませていました。
あまり上手く説明できないなと思っていましたが、結局結論としては「説明することがかなり困難なんだ」ということがわかってきました。
一周回ってそうだなと思いました。

というのは、「メモを取るAI」を作ることを考えてみました。
どうやったらAIやアプリで実装できるのかをぼんやり考えたのですが、これは結構難しいなと思いました。

それはなぜかというと、メモを取るには複合的な機能が必要になるからです。
画像認識で、これは肺炎だ、これはガンだ、と分かるよりもはるかにメモを取ることは難しいです。
一見何気なく日常でやっていることの方がAIより難しいというのは不思議な感じがするかもしれませんが、難しいです。

メモを取るといっても、耳から聞いて、情報をまとめて、それをコンパクトに要点だけ書き残すということなので、結構高度な行為です。

これが発達障害の人にとってなぜ難しいのかというと、ASD的な特徴(ADHDの人にもあります)ですが、

<耳からの情報処理>

耳から入る情報が苦手な人が多いです。
耳から入った情報をそのまま文章に置換する力が弱かったりします。急にわからなくなってしまう人もいます。
それは、ASD特有のマルチタスクの苦手さ、ADHDの人が持っている集中困難、注意散漫で説明がつきます。

<知能検査における4つの要素>

人によりますが、知能検査における4つの要素(処理速度、メモリー、知覚統合、言語理解)のどれかに苦手があることがあります。

例えば「処理速度」、何かを処理するのが遅く、相手の速度に付いていけなくて混乱します。
「ワーキングメモリ」、一度に覚えておける量が少なく、頭で覚えて要約するときに、最初に覚えておける量が非常に限られるため、メモに書かなければいけない量に対応できず混乱します。
「知覚統合」、つまりパズル能力、要約していく能力や特徴を押えていく力が弱いので、メモを書きにくいということがあります。
「言語理解」、そもそも知識が少ない、知識に偏りがあり前提とすべき知識がないために相手の言っていることを把握しづらいことがあります。

<構造化、中枢結合>

発達障害の人は片付けが苦手な人が多いのですが、メモを取るのは片付けをするのと似ています。
ワーッと入ってきた情報を要領良く整理して頭の中に入れ、メモにしていくことが苦手です。
なぜなら片付けが苦手だからです。
物理的に目に見えるものでさえ片付けるのが苦手なので、耳から入ってくる情報ならなおさらです。
これは構造化の苦手さです。

中枢結合(パズル能力、整理整頓・要点を見つける力)も弱いと言います。
例えば中枢結合の話では、「にんじん、じゃがいも、豚肉と… あと、そうそう、玉ねぎも買ってきて」と聞くと、「あ、これはカレーの具材だな」と思います。
カレーの具材を買えばいいんだ、と思って買い物へ行くので、買うべきものを覚えておくことができます。
しかし、中枢結合が弱いと「にんじん、じゃがいも…… で、何だっけ?」となってしまいます。
中枢結合が強いと、野菜だとにんじんとじゃがいもとタマネギ、お肉は豚肉、と整理できますが、抽象化して整理していくのが苦手なので難しくなります。

一般の人は「あ、カレーの具材だな」と思って、キノコを余分に買ってくる、カレールーを余分に買ってしまう、ということがあります。それでも文脈を読めているので怒られることはありません。
場合によっては肉じゃがだったりするので、キノコなんかいらなかった、カレールーなんていらないのに、と怒られることはあります。
これは僕の家の話です。

そういう形で整理して頭の中に入れておくのでミスは少ないのですが、発達障害の人は一個一個全部覚えなければいけないので、パンクしてしまいます。

<心の理論と文脈把握が苦手>

心の理論とは何かというと、相手の立場に立って考える力です。
文脈把握は、例えば「お母さんいる?」と言われた時に、お母さんを呼んでくるという対応ができず、「あ、います」と答えて話が終わってしまう。
「お母さんいる?」という質問が、「いるのだったら呼んできてね」という文脈のものだとわからないので、メモを取るときにも、次に何を言うのか予測がつきません。
だからメモの要点を取りにくかったりします。

メモの取り方

これらの能力が弱い結果、メモを取るのが苦手だったりします。
だから「どういう風にメモを取ればいいですか」という質問には、その人によって答えを変えているのが本音です。

例えば、他のことは得意だけど、片付けが苦手なのでメモを取るのが苦手な人だったりすると、構造化が必要だということで、5W1Hを利用して事前にメモを書くリストを作っておくと書きやすいよね、とアドバイスします。

また、文脈把握が苦手な人なら、例えば職場に電話がかかってきたときにどういう電話が多いのかと考えて、上司がどこにいるか、上司に引き継いで欲しいなど誰かを呼ばれることが多いとすると、誰かを呼ぶ電話なら人の名前にだけ注目しておく、ということを話します。
全部に対応しようとするのではなくて、この会話はこういうことが多いからこういうところに注目したら良いのではないか、と教えたりします。

どういうところが苦手かによってメモの取り方は変わります。
伝え方や技術の身に付け方は違うので、そういうことがあるよということです。

と言っても、3パターンくらいしかヒントはありません。

<ヒント1:5W1Hの活用>

いつ、どこで、だれが、どのように、なぜやったか、という話を書くように気をつけます。
事前にマニュアルやメモ構文を準備しておきます。

例えば、居酒屋やお店で注文票があります。
ピッピッと、ビール3、ウーロン茶2、唐揚げ3という感じで入力します。
これをメモしようとすると難しいですが、最初からリストがあって数字だけ入れるのは簡単です。

そういう形で脳の負荷を減らして、ミスを防ぐことができます。
同じように、事前にどういう質問が多いのか、どういうメモを取る必要があるのかがわかっていれば、そういう準備をしておくのが良いと思います。

<ヒント2:録音アプリの利用>

スケジュール帳などの紙のメモ帳も良いですが、それでグジャグジャになってしまうようなら、iPadやアプリなどを利用すると良いと思います。
僕もGoodNotesというものを使っています。

2年前くらいに動画に撮ったときには「紙が良いですよ」と言いましたが、最近はアプリでも良いなと思っています。
紙の方がパッと書けるので良いこともありますが、紙だと整理がしにくく混乱する人がいたりしました。
なのでアプリを使いこなすのも良いよという形で話したりもしています。連動性もありますし。

<ヒント3:文章で指示を受ける>

これを言ったら元も子もないのですが…
そもそも口頭で指示を受けない、ということです。
書面やメールやSlackで指示をもらったら、という話です。
上司から口頭で指示を受けるのではなく、書面や付箋でもらうようにすると、ミスが防げます。
合理的配慮を求めましょう、ということも言ったりします。

メモの取り方は難しいです。
AIでメモを取ってもらおうとするとめちゃくちゃ難しいです。
もしそれができるのであれば、電子カルテを自動で書き込んでもらうこともできる訳です。
それもまだできあがっていないですから、そのうちできると言われていますが、なかなか難しいんじゃないかなと思います。
ましてや精神科のカルテをAIが書くのは難しいと思います。雑談ですが。

とにかく、メモを取るのはAIでもまだまだ難しいことですし、それはなぜかというと、複合的な能力や機能が求められるからです。
どこが苦手なのかを把握して、その上で対策を立てるのが良いと思います。
対策の立て方として、3つのヒントを挙げました。


2022.4.11

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