本日は「他人と自分を割り切れない」というテーマでお話しします。
僕はよく患者さんや色々な人に、「距離を取りなさい」と言います。
自分と他人は別の人間なので、相手の心配事に巻き込まれる必要はありませんし、自分の困りごとや心配事を一緒に解決してもらおうとする必要もありません。
各々独立した人間なので、各々解決した方が手っ取り早いことが多くあります。
そういう話をするのですが、なかなか自分と他人を割り切れませんし、どうしても距離が近づいたり気になったりしてしまいます。
今回はどうしてそういうことが起きるのか、どういう人にそのような問題が起きやすいのかという話をします。
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脳内は20人くらいの群れ社会
人は噂話が好きです。
芸能人やテレビに出てくる人たちの噂話でさえ好きで、赤の他人とは思えないようです。
繰り返しテレビで見ているとなかなか赤の他人とは思えず、興味があってついついネットニュースを見たくなってしまいます。
「今日の株価」よりも「噂話」が大好きです。
それはどうしてかと言うと、人間はゾウリムシのようなものから猿を経て人間として進化してきたと言われていますが、まだまだ頭の中の構造は20人~30人くらいで群れを作っていた時のままなのです。
人間の脳は「物理的な現実」としては、原始時代からストップしています。
ですが、「社会的な現実」としては、人間はどんどん文明を進化させています。
昔は20人~30人の群れだったので、口頭だけで伝えていました。
情報は人間の脳の中にだけ保存されていました。ですから、長老と言うのは群れのことをなんでも知っていました。
ですが、それがいつしか紙に文字を書くようになり、個人の脳内に収め切れないほどの情報をコミュニティに蓄えられるようになりました。
もともと20人くらいのものが300人、1000人となってきたら、もう個人の脳は超えているのですが、それでも複数の人間の脳の中に保存されている情報しか持つことができませんでした。
それが、文字を獲得することによって、紙に書くことによってより多くの情報を抱えられるようになりました。
その後、活版印刷ができて大量に本を作れるようになり、今はTV、ラジオ、SNSを経てもっと多くの情報を人類は抱えるようになりました。
ですから、大量の情報があるのです。
死んだ人が残した情報もたくさんありますし、今生きている人たちも絶えず新しい情報を出しています。
無茶苦茶たくさんの情報があるのです。
それなのに、赤の他人とは思えません。
そんなに大きい情報なのだから我々と関係ないのは明らかなのに、赤の他人とは思えません。
それが人間の不思議なところです。
ものすごく大量の情報があるのに、頭の中に入ると20人くらいの群れ社会に戻ってしまいます。
だから誹謗中傷をされると、たった1件の悪口のコメントでも1/20の人、群れの中の誰かから悪口を言われたような錯覚に陥ります。
褒められてもそんな感じはしませんが、ネガティブな情報はインパクトが強いのです。
1万人のうちのたった1人や2人が悪口を言っているのなら、そんなのは誤差だろうと思うのですが、感じている側はかつての群れの時のままです。ですから20人のうちの2人が悪口を言っているような感じになってしまいます。
これが人間の特徴です。
自他の境界がゆるい、共依存?
人間の頭の中は20人の群れ社会のままなので、自他の境界がゆるい、共依存的な人はたくさんいます。
個人差はありますが、より「群れ的」な人たちはたくさんいて、そのような人たちが病気になったり困ったりすることがあります。
このようなフィクションを考えたりします。
では、自他の境界がゆるい、共依存的なのは、どのような人に多いのでしょうか。
・女性(アルコール少、カサンドラ症候群、母子密着:障害のある子ども)
女性は共感性が高いと言われます。男性よりも群れ社会に適した脳になっていると考えられています。
とは言いつつ、これを否定する学術研究も多くあります。
でも女性が自他の境界がゆるく、共感しやすく共依存になりやすいというのは、臨床的には明らかな事実です。
アルコール依存症のパートナーとの共依存は最近減っています。
カサンドラ症候群(パートナーが発達障害である奥さん)の問題は可視化されている一方で、名前が広まることによって減っているような印象はあります。苦しいけど絶対別れないぞと言うよりは、苦しんだからこそ最後の一思いで「益田先生、離婚しても良いという許可をください」という患者さんも増えました。
特に障害のある子どもの母親は献身的ですし、子どもとすごく密着感があり自他の境界がゆるかったりします。
そのような母親というのはどこか他の人に対しても境界がゆるかったり、うまく距離を取る、独立していく、自立していくのが苦手だったりします。
・発達障害
発達障害がある人も自他の境界がゆるく、妙にお人好しだったり、ストーカーに遭ってしまったり、逆に自分がストーカーになってしまったりすることがあります。
・社交不安障害、回避性パーソナリティ症
このような人たちは距離を取ります。
怖い、恥ずかしい、不安になるからということで距離を取るのですが、1回内側に入られると、その壁はとても薄く侵入されやすいというのも特徴としてあります。
・家族/組織が好き
もともと家族や組織が好きな人は自他の境界がゆるいので、良い時は良いのですが、悪い時は悪い人にだまされやすかったりします。
・いじめ、トラウマの問題
このような人は不安になって距離を取ります。
ですが、壁は薄いので侵入されて問題が起きたり、反復強迫のように悪い人のところに近づいていってしまう、共依存になってしまうことも結構あります。
関係→特性へ?
昔は自他の境界がゆるいとか共依存の問題は「関係性の病」だったのですが、最近は「特性の問題」に考え方が移行しています。
発達障害の問題なのではないかという形で考えることが増えた気がします。
自他の境界がゆるいのは、関係性の病というよりは個人の資質の問題、個人が距離を取れないというスキルの問題、能力の問題、特性の問題なのではないかと考えられつつあります。
でも結局それは説明の問題でしかありません。
患者さんにどういう言い方をしたら本人が自覚して距離を取れるようになるのか、ということです。
人によって特性として説明した方が理解しやすいのであればそうしますし、関係性の病として説明した方が意識しやすく距離を取れるのであればそのように説明をするのが臨床的には普通です。
とにかくバランスは難しいです。
どれだけ相手と距離を取ったり距離を縮めたりするかというのは難しい。
誰とも交わることがなければ、都会に住んでいても無人島にいるようなものなので、孤独を感じますし、うつっぽくなりますし、心身の健康に良くありませんん。
新しい情報を吸収していく、誰かと遺伝子交換をする、考え方、気持ちなどを交換しあうことで常にフレッシュな気持ちでいられますし、ブラッシュアップしていけます。
ですが、距離を取ってしまうとそういうことができません。
かといって近づきすぎてしまうと苦しいですし、うまく利用されてしまい、自分らしく生きられなくなってしまうので、やはり距離も必要です。
良い感じの距離感は難しいですし、正解はありません。
TPOに合わせて距離をうまく調整することが大事です。
今回は、他人と自分を割り切れない人、というテーマでお話ししました。
前向きになる考え方
2022.5.30