前編はこちら
https://wasedamental.com/youtubemovie/3010/
「反応しない練習」というタイトルに惹かれるならば、「無駄な反応をやめたら僕はもっと生きやすくなるのだ」と実はわかっているわけです。
「心の反応を見る」とはどういうことかと言うと、例えば煩悩に支配されているのではないか、ということです。
諸行無常であることを理解せずに所有物に執着するなど、何かに執着することが煩悩です。世の中に永遠のものはなく、変わっていくし、壊れていくし、なくなっていきます。そういうものだと理解せず、自分の権力、楽しみ、家族、仕事、やりがい、貢献、業績などに執着することが煩悩です。子孫のために貯金することなども一見美德のように見えて煩悩に支配されている状態です。それを合理的に考えていこうよと言っています。
コンテンツ
八正道から四諦へ
八正道というのは正見・正思・正語・正行・正命・正精進・正念・正定の8つの実践、四諦というのは苦諦、集諦、滅諦、道諦の4つの教えです。
練習はどうなる?
1.言葉にする、カラダを意識する、アタマで分類する
今の自分の気持ちを言葉にしてみます。例えば、泣きたい、仕事を休みたい、上司にいじわるされて情けない、苦しいなど。
そしてその時に体を意識します。わなわなと震えている、ポロポロと涙を流している、手足がじんわり熱くなる、お腹がすかない、便秘や下痢になる、眠れない、寝ても途中で起きてしまうなど。
アタマで分類するのは、これはうつ状態だな、不安・焦燥にかられているな、などです。
2.良し悪しを「判断」しない
自分から見るのと相手から見るのでは見えるものが違いますし、全く関係ない人から見てもまた違います。今判断しなくても、1年後に判断すると全く違うものになっていたりします。
判断しても意味がないし、その判断が間違っていることもあります。判断をしないということが大事です。そうすると自分の心の無駄な判断に気づけます。
3.他人の目を気にしない
他人の目を気にしなければ無駄が減ります。
他人の目を気にしても関係ないことがたくさんあります。何でもかんでも気にしても仕方ありません。自分の利益や幸せにつながることを、他人を犠牲にしたり傷つけたりせず、他人の助けを借りながらやっていきます。
精神科医目線で語ると
この本は、健康な人が不安な時に読むと良い本だと思います。
精神科の患者さんから見た時にこの本はどうなのだろうと考えると、疾患ごとにかなりやり方が違うだろうと思います。
例えば発達障害があってロジカルな思考が強い人は、仏教をロジカルに理解するかもしれないけれど、体の意識が抜けているからもっと体を意識した方が良いと伝えるかもしれません。
すごく頭でっかちになってしまっている人には、一回家事をやってみたらとか、野菜を切ってみようとか、包丁が切れなかったら研いでみようなどと言うこともあります。
また、境界性人格障害の人に「諸行無常」と言うと、希死念慮を高めてしまうことも考えられるのでそのまま伝えてはいけないと思いますし、アルコール依存症の人にそれは煩悩なのだと訴えかけても苦しかったりするので、やはり入院治療や薬物治療が大事だと思います。
患者さんによってアプローチを変えますが、とは言っても治療の中で美意識・美德を扱わなければいけない場面もあります。そういう時には、仏教の教えは日本人の美意識に結びついているので、そこを使いながら患者さんに説明して良くなっていってもらうことは有効かと思います。
僕は諦観が好きなので「仕方がないね」とか「苦しいね」とよく言ってしまうのですが、言い方によってはうまく伝わらないのでコミュニケーションを変えていかなければいけないなと思っています。
この本を読んでいて思ったのですが、少しポジティブを足していかないと、諦観は受け入れづらいのかなと思います。例えば「仕方がないね」という言い方だけだど自分を責めてしまうことが多いようなので、そこはボジティブを足して「自分を許してあげないといけないね」とか同じ諦観を伝えるにしても言葉を変えないといけないななど最近反省しています。
認知行動療法のワークブック
特に「1.言葉にする、カラダを意識する、アタマで分類する」を意識するために、認知行動療法(CBT)を利用してみると良いのではないかなと思います。CBTの要領で書きながら、その中で仏教的な価値観を利用すればすごく良くなる場面も出てくると思います。
認知行動療法が自分でできるワークブック