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発達障害の治療の流れについて解説します

00:00​ 今日のテーマ
01:25​ 前期(~6ヶ月)
06:58​ 中期
10:45​ 後期(~6ヶ月)
12:16​ 個別の課題対策

今日は「発達障害の全体的な治療の流れ」を解説してみようと思います。細かいところの動画はこれまでにも撮っていますので概要欄のリンクをご参照ください。

治療の経過を前期、中期、後期に分けてみました。それぞれの期間でやることは結構違います。皆さんが興味があるのはおそらく前期のことだと思います。前期のことで頭がいっぱいで、あまり中期、後期については想像したりしたことがないのではないかと思いますが、臨床家の腕が試されるのは僕は中期だと思っています。良い先生とは中期が上手い人だと思います。

前期(~6ヶ月)

・診断・検査+疾患教育
最初の方にやることで大事なことは、診断・検査と疾患教育です。検査に関しては発達障害の場合はWAISや知能検査を実施したりします。WAISを実施しなくても発達障害の診断はできるとも言われますが、WAISを行うとその人の困り具合を想像しやすくなりますので僕は個別の点数項目を重視しています。

・薬の検討
発達障害はASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動性障害)、LD(学習障害)の3つの要素に分かれていて別の疾患と言われますが、なんとなく被ります。特にASDとADHDは被るので、その人に合った薬を考えます。

ASDの過敏性が強い場合はリスペリドンやアリピプラゾールを使用しますし、ADHD症状が強いのであればコンサータ、ストラテラ、インチュニブのどれかを使います。LDの場合は特に薬はありません。睡眠リズムが乱れやすい人には睡眠薬の使用も検討します。

・ラポールの形成
相性と言ったりしますが、その人との治療関係をうまくやれるのかということです。これは患者さんから見た医者の評価とも言えますし、医者側から見た患者さんの評価とも言えるかもしれません。通院の初期は、うまく通ってくれる人なのか、そもそもクリニックに通院できるのか、治療関係を維持できるのかといったことを考えます。また、外来診療は再診だと5分前後になってしまうので、その5分前後の診療を継続することでこの人の改善は見込めるのかということでもあります。

・外来以外の場
診療だけでの改善は厳しいと思われる場合はどうしたら良いかというと、外来以外の治療の場を検討します。患者さんは外来以外の制度や治療をなかなか想像できないですし、藁をもすがる思いで来られているでしょうから、医師側が他のものを利用しながらの治療構造を検討すべきです。大学生であれば学生相談室を利用する、トレーニングが必要ならばデイケアや就労移行支援を使うなど、そのようなアプローチが必要です。

このように、治療のための前提条件を作るのが前期です。1回の診察では決まらないので、半年くらいかけて決めていきます。その後に中期に移ります。

中期

中期では薬の継続をして飲み忘れがないかなどの服薬指導をしつつ、個別の課題対策をします。

人間関係で困っている、生活指導が必要、などいろいろなケースがありますが、前提としては疾患教育がしっかりされていることが重要です。発達障害の人の特徴やミスをしやすい場面など、教科書に書いてあることすべてが患者さんに当てはまるわけではありませんが、それでもやはり多くの人に当てはまるから書いてあるわけです。教科書に書いてある解決策も多くの人に治療効果があったから書かれているので、その辺りの前提はしっかり共有できていないといけないのではないかと思います。

その上で患者さん個人が日常の中で不安に思っていることや困っていること、具体的なことを1つ1つ吟味し、共感、共有して一緒に解決していくことが重要です。そのようなことをする中で、「問題解決スキルの内在化」を行います。「こういう風に考えたら良いのか」「こういう問題は自分だけでなくて他の人も悩んでいるから解決が難しいんだな」といったことがわかってくると良いです。

また、中期では自立支援、障害者手帳、障害者年金を検討したりします。自立支援は医療費が1割になる制度です。収入に応じて限度はありますが、薬は高かったりするので検討します。障害者手帳は初診日から半年以上、障害者年金は初診日から1年半以上経ってから申請が可能です。

後期(~6ヶ月)

治療が進んでいくとだんだん終わりに向かっていきます。
薬は基本的に減薬して終了していきます。一部使い続けることもありますが、基本は減薬・終了していきます。

個別の課題については、自ら対応、学習、納得できる状態にまで持って行きます。自分で学んで自分で問題や不安を解決していけると良いわけです。後期になっていくと、僕が何か言わなくても「先生、この間借金玉さんの本を読んで解決しました」とか「先生のYouTubeはあまり見ないのですが、樺沢先生のYouTubeを見て安心しています」といった話が出たりします。

自立支援や手帳などに関しては継続か中止を検討します。継続する場合は2、3ヶ月に1度の通院でメンテナンス的な治療をしていきます。

個別の課題対策

もう少しお話しすると、「個別の課題対策」が僕は最も臨床家の腕が試されるところだと思います。前期のことに関しては勉強すればすぐできますし相性の問題だったりしますので、医者が重視するのはやはり個別の課題に関するところです。

ある意味センスとも言えるこの部分をどのように言語化できるか考えていたのですが、患者さんの「語り」から問題点を抽出する部分で医者の腕の差が結構出るのではないかと最近思っています。

・精神医学+αの知識を使って言語化できるか
患者さんがいろいろ話す中からどこが問題の本質かがわかるのかはセンスが必要です。ではそのセンスとは何かというと、「精神医学+αの知識を使って言語化できるか」ということです。センスがある医者は、精神医学のタームだけで患者さんの状態を描写してきちんと説明できます。ただ、精神医学だけだと難しいところがあるので+αが必要です。センスがない医者は+αを自分の言葉だけで抽出してしまったりします。

・経験を活かせているか
とは言いつつ、経験を活かせているか、ということもあります。教科書的な知識からそこに重み付けをします。患者さんの語りの中に嘘は含まれていないという前提で精神医学は考えられていますが、だいたい語りの中には嘘がありますし、語られていないこともあります。

例えば「親に対して別に何も思っていません」と言っていても医師はあるだろうと思っていますし、意外と性的な被害にも遭っています。根掘り葉掘り聞くことはしませんが、性的な屈辱感を受けていることは多いです。性的でなくてもいろいろな屈辱感を受けていることは多いですが、そこは語られていなくても何かポイントがあります。

・ロジカルに整理できるか
いろいろな視点から物を見られるか、俯瞰的に見られるかも大事ですし、患者さんに不安や抑圧がないかということも大事です。不安や抑圧があると語りの時点で事実が歪められてしまいます。

治療者側にとって不安や抑圧がないかというのは逆転移が起きていないかということです。逆転移があると問題点の抽出のときに合理的に考えられなくなってしまいます。難しいですが。
「この人はお金持ちなんだろうな」という逆転移が発生しているときに、「お金持ちならこのようなことで困っているに違いない」などと思ってしまうと問題点の抽出がうまくいかなくなってしまいます。でもお金持ち特有のトラブルもあるのでこの辺りもセンスだったりします。

・解決プランは平凡なものほど良い
問題点の抽出はセンスだと言っていても、選ぶべき解決手段は人が思い付かないようなことではなく平凡であればあるほど良いです。

治療のゴール

すごく抽象的な話で発達障害というよりは精神医学全般の話になってしまいましたが、治療のゴールは「自ら対応して学習し、納得できる状態」に持っていくことです。ここを目指すためにどのような治療プランを組むのかということです。

診察と診察の間にYouTubeや書籍などで学んでいくと個別課題の対策にあてられる時間が増えますので、結果的に「自ら対応、学習、納得」の水準まで行くのが早くなるのではないかと思います。僕のYouTubeではホワイトボードの緑で括ったところをお伝えしていければと最近考えています。

【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/​
カプラン 臨床精神医学テキスト第3版


2021.3.21

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