今日は「うつ病と適応障害の違い」について解説します。
この2つはややこしいです。
テレビの報道などを見ていると、昔は「適応障害」とは診断されず、何でも「うつ病」と診断されることも多かったのですが、最近は適応障害と診断されるケースが多くなっている印象があります。
どちらも同じ「うつ状態」にあることには変わりありませんが、もちろん違いはあります。
「うつ病ならば薬が効く、適応障害ならば薬が効かない」など誤解も多いので、その点についても解説します。
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うつ病と適応障害
・うつ病
かつては「原因不明の繰り返される脳病」と定義されていました。
現在は「操作的診断」と言って基準項目(DSM-5, ICD-10の診断基準)を満たせばうつ病と診断されますが、古典的には「原因不明の繰り返される脳病」と定義されています。
19世紀の終わりにドイツのクレペリンが精神疾患を分類し、それが現在のDSMという診断基準に繋がっています。
クレペリンやその仲間、その時代の医師や研究者たちがどのように病気を分類してきたかというと、今の症状を見るだけではなく「どのようなきっかけで発症し、どのような症状と経過を辿ったか」を観察し、そのまとまりの中で分類し、疾患としてカテゴリーに分けました。
うつ病に当てはめるとこのようになります。
発症…原因不明
症状…落ち込む状態
経過…繰り返される
逆に、クレペリン以前は、「熱が出たら熱病」というように症状にしか注目していない時代がありました。
実際は熱の原因は様々ですし、経過も様々です。
・適応障害
適応障害は簡単に言うと「ストレスが原因の抑うつ状態」と定義されています。
基本的にはDSMの診断基準を満たせば、うつ病なのか適応障害なのかがわかるようにできています。
他に「急性ストレス性障害」や「ストレス障害」もありますが、急性ストレス性障害はPTSDの時間が経っていないものです。
また「適応障害って適応していないから適応障害なのですか?」と聞かれることもありますが、そういうわけではありません。ストレスが原因の抑うつ状態を日本語に訳すと「適応障害」となるのです。
よくある誤解
・引き金の有無?
うつ病の場合は原因不明だから引き金(原因)がない、適応障害はストレスが原因だからパワハラなど引き金となる出来事があると思われがちですが、これは厳密にいうと違います。
うつ病の場合も発症の原因となる出来事があります。適応障害の場合ももちろんあります。
ですから、引き金の有無だけで分けることはできません。
ただ、うつ病の再発を繰り返している場合は引き金となる出来事のインパクトが弱かったりします。
「それくらいのことで1ヶ月ご飯が食べられないほど落ち込みますか?」というようなことになりがちです。そうなってくると原因不明に近づいてくるのですが、基本的には引き金の有無で決定はされません。
もう少し過去の話をすると、ヤスパースは「なぜこの人はこんなに落ち込んでいるのか、が了解可能かどうか」で難治性のうつ病かどうかを分けましたが、これは後々否定されています。
・慢性的ストレスの有無?
うつ病の場合、長い間の慢性的なストレスを浴びていた、幼少期からストレスを浴びていたのでストレスに弱い脆弱な性格になってしまいうつ病になっている、というものです。
慢性的な疲労やストレスがあるからうつ病に発展するという研究はありますが、臨床的にはこれだけで区別をつけることはできません。適応障害の人にも慢性的なストレスを抱えている人はいます。
・うつの時に楽しめる? すぐ良くなる?
うつ状態の時にも自分の趣味を楽しめるか楽しめないかでうつ病と適応障害を分けられる、という話ですがこれも嘘です。
うつ病のうつは深くて適応障害のうつは浅いと言ったりしますが、そんなことはありません。うつ病も適応障害もどちらも同じように落ち込みます。
ただ、うつ病のうつの場合は入院になるほど落ち込んだり、もっと酷くなって妄想(貧困妄想、罪業妄想、心気妄想)が出たりします。妄想があるのは適応障害では稀です。
適応障害の方がすぐに良くなるかどうかで言うと、確かにうつ病の方が長引くことがあります。ですが、パワハラやセクハラなどのストレスが原因で適応障害になり、職場から離れて2、3週間ですぐ元気になるかというとそんなことはありません。確かに切り替えが早い人もいますが、皆がそうではありません。
・薬が効く、効かないの違い?
これも違います。うつ病の1/3の人は薬が効き、1/3の人は薬は関係なく良くなり、残りの1/3の人は薬によっても時間の経過によってもあまり良くなりません。
適応障害については薬がなくても時間が経てば良くなりますが、使った方が良いというデータもありますので使うこともあります。
・甘え? 性格の違い?
うつ病は脳の病気だから甘えや性格ということではなく、適応障害の場合はストレスが原因だから性格が弱い、というのは間違いです。そんな単純な話ではありません。
うつ病の人でもうつ病性格と言って生真面目な人がいたりしますから、性格的な問題や認知の問題が絡まないということはありません。
逆に適応障害の場合、強い人であっても酷いストレスの下にいればうつになります。月の残業時間が100時間を超えるのを何ヶ月もやっていれば誰でもうつになります。甘えでも性格でもありません。
結論
結論を言うと、最初はうつ病か適応障害かの診断をつけるのは誰にもできません。
後医は名医と言いますが、年単位の経過を持って、「繰り返される原因不明の脳病なのか」「ストレスにあいやすい人だったのか」がわかってきます。
年単位の経過観察で診断がついていきますし、だから紹介状(診療情報提供書)がとても重要です。
適切な行動
診断がよくわからない中で、僕らは適切な行動を取る必要があります。
診断がきちっとわからないのは、問診が足りないとか診断能力が低いといったことではなく、基本的にはわからないものなのです。検査でわかるものでもありませんし、経過を見なければなりません。
ですが、わからない中でベストな行動を取る必要があります。
例えば40代、50代の人でうつになった場合、仕事のストレスで適応障害になったのかもしれないし、年代的にうつ病の好発年齢なのでうつ病かもしれない。
副作用がないのだったら抗うつ薬を使っても良いのではないか。睡眠薬を使ったほうが良いかもしれないが、依存になるかもしれないからまずは生活習慣から直した方が良い。またはこの人は早く寝ないと自殺の可能性があるから睡眠薬を使おう。など色々考えます。
20代の新社会人のうつであれば、仕事のストレスによる適応障害をまず考えますが、話を聞いているとアップダウンがあるので、躁うつ病ではないか。本人は抗うつ薬を出してほしいと言っているけれど、抗うつ薬は自殺リスクを上げるので別の薬を使おうなど、わからない中での適切な行動というものがあります。
以上、うつ病と適応障害は簡単な一覧表で分けられるようなものではありません。
目安にはなりますが、最終的には主治医の判断となります。