今日は「自閉的な女性への治療法」というテーマで、引きこもりだったり友達を作れない、孤立しがちな女性の困りごとへの対応方法についてお話しします。
「自閉的」という言葉は聞き慣れないかもしれません。
自閉的とは、自閉スペクトラム症の傾向がある人、もしくは自閉スペクトラム症のグレーゾーンの人、そして自閉スペクトラム症と診断される人も含まれます。
自閉スペクトラム症とは発達障害の一種で、コミュニケーションが苦手だったり相手の気持ちを読み取るのが苦手だったりします。
そのような傾向の女性の治療はどうしたら良いのか、ということをお話しします。
コンテンツ
無口な人が多い
このような人たちはとても困っているのですが、無口な人が多いです。
診察室に来て「私は困っていてうつでしょうか」と言うのですが、こちらから話しかけても「うーん」と困った顔をするだけで自分から話せなかったり、何を話せばいいかわからない、話す内容が見つからないと訴える人がいます。
イメージしやすいのは、エヴァンゲリオンの綾波レイです。
無口で何を考えているのかよくわからない感じの人が結構います。
男性と比べると
彼女たちは、自閉スペクトラム症の男性と比べると社会適応は良いです。
引きこもりやすい男性や孤立しやすい男性の場合、中学や高校の段階でドロップアウトして引きこもりになってしまう、大学の時点で中退してしまう、会社に入ってもなかなか長続きせずにすぐ辞めてしまうという人が多いです。
ですが、女性の場合は女性特有の脳の性質のおかげなのか、発達障害の傾向が弱くなるのかわからないのですが、社会適応が良い人が多いです。結構頑張れてしまいます。
同じような障害がありもし彼女が男性であったら、もっと早い段階で社会から距離をとっているところが、何とか食らいついている、何とか会社で仕事をしていたり、何とか学校に通って一生懸命勉強していたりする人が多いです。
でも会社でうまくしゃべれなくて困っている人が結構います。
また男性と比べて恋人がいる人が結構います。
コミュニケーションは苦手なのですがなんとなく恋人がいたりとか、パートナーがいらっしゃる方は多いです。
性被害に遭いやすいのも女性の特徴です。
これは男性よりも女性の方が圧倒的に多いです。
受動的でなされるがままで、良くも悪くも言うことを聞いてしまうので、良い人であれば保護してくれるパートナーができますし、利用するパートナーの場合は被害に遭ってしまいます。
性暴力の被害に遭うことも結構多かったりします。
なかなか自分の気持ちを言葉にするのが苦手なので、ストレスの行き場を求めてリストカットをしてしまったり、過食嘔吐をしてしまうことも多いです。
男性であればアルコール、ギャンブル、ドラッグなどに依存していくところが、女性の場合は内側に向かうことが多いのです。
男性同様に
意外と気づかないのですが男性同様に、自己中心的な視点があったりします。
相手の気持ちを思いやれないのです。
暴力的で他罰的な場合もあります。
おとなしい感じで優しい子かなと思うと、内側はドロドロとしていてすごく攻撃的、暴力的な空想を抱いていることがあります。
実際行動するかどうかは別として、引きこもりの女の子が「私ちょっと見てしまったのですが」と過激な自殺サイトを見ているとか、暴力的なおもちゃや漫画を集めている、実際に誰かを攻撃して殺してしまおうというような空想を抱いている、デスノートをつけているということもあったりします。
それで親御さんがギョッとしてしまうパターンも結構あります。
もちろんそうではない人も多いのですが、男性だから暴力的な空想を抱いているということではなく、女性でもあるということです。
治療
<薬物治療>
・うつ
うつ症状に対しては、抗うつ薬やエビリファイ(抗精神病薬)を使ったりします。
抗うつ薬に関しては鬱症状に効くのですが、副作用でイライラしてしまうことがあります。10代の場合は自殺のリスクを上げると言われているので、ひどくない場合は抗うつ薬は使いにくいかと思います。
・発達障害
ASD(自閉スペクトラム症)と言えども、ADHDの要素を持っている人がほとんどです。
隠れADHDのような人もいるので、そちらの治療をすることで頭の中の混乱がスッキリして困りごとが減ることもあります。
ADHDの治療としては、コンサータ、アトモキセチン、インチュニブの3つの薬があります。(子供の場合はビバンセという薬もあります)
いずれかの薬を入れていくと、メインの症状には効かないのですが、頭の中の混乱などサブの症状を改善してくれます。
大きく効くという感じはありませんが、使ってあげると少し症状が柔らぐので、薬物治療を考慮することも大事かと思います。
<カウンセリング>
カウンセリングも重要視されます。
ただもともとおしゃべりが苦手なのです。ですから言語を介した治療が難しい場合が多いです。
診察時間をしっかり取っても会話に行き詰まったり、沈黙の時間がのびてしまったり、その沈黙の時間が相手にとっては負担になり苦しくなってしまったりします。
ですから無理にカウンセリングをしていかない方が良いと思います。
半年や1年のカウンセリングを受けた後に当院に来る人も結構いらっしゃいますが、あまり治療効果がなかったという人も多いです。
それはカウンセラーが悪いというよりは、もともとあまり効かないところに治療をしていることも多いのではないかと思います。
カウンセラーの腕の良し悪しよりは、カウンセリングの適応があるかないかによって治療効果が大きく変わります。意外と腕が良いとか悪いといったことは関係ないというのは臨床的な事実です。
あまりにも下手だとダメですが、一定のレベルがあればそこから先の差は意外となかったりします。
<作業療法>
言葉が苦手なので、言葉を介さない治療、子供であればプレイセラピー、その他にアートセラピー、音楽療法、デイケアでの料理などもあります。
このような治療を介して心と心が触れ合うことで、対人不安を減らすということもあります。
ですが、結局苦手なので行かないことも多いです。
「行ってみたら?」と勧めたりはしますが、なかなか治療に繋がることはありません。
僕もデイケアをやろうかと挑戦したこともありましたが、難しかったです。
では治療においてどのようなことが重要かというと、一番大事な事はもう少し手前にあり、きちんと病気の説明をする、肯定してあげることが大事です。結構しつこいぐらいに肯定してあげる必要があります。
1人でも良いんだよ、抜け出しても良いよ、ということです。
男性であれば、「みんなとつるむのは面倒くさいから」と早々に独り立ちしてしまう人が多いです。
考えてみれば僕も早々と開業医になってしまいました。
男性だと割と社会的に容認されやすいということがありますが、女性の場合はなかなかそれが許されにくい状況です。少なくとも今の日本はそのような環境なのではないかと思います。
社会圧があるから適応が良かったのですが、過剰な努力をするのでその結果リストカットや過食嘔吐に走り、自分を傷つけていることがあります。ですから「抜け出しても良い」ということを言ってあげることが重要です。
「彼らを孤立させても良いのですか」という反論がありますが、孤立はダメです。
ですが、彼女らが考えているゴールと治療者や親御さんが考えているゴールは結構違います。彼女らが寂しくない範囲の人間付き合いを続ければ良いのです。
月に1回人と会うだけでも十分だという人もいます。
驚くかもしれませんが、そんな患者さんはたくさんいます。
生活保護を受給して社会と離れ、月に1回僕のところに通院するだけで「結構満足です。人間関係はこれ以上あまりいらないですね」という人も普通にいます。
人間は多様性があり、本当にその人その人で求めていること、ニーズ、ゴールは違います。
どれぐらい人間関係が必要なのかということを把握しながら肯定してあげることが重要です。
人によっては「ひきこもりであるけれど、自分を傷つけることはない」というところがゴールだったりするので、親御さんとしては心苦しいかもしれませんが、その人その人に合った治療のゴールを考えていくことが必要です。
でも案外20代のうちはゴールがそこであっても、30代になったら急に働き始める、40代になってから急に働き始める人も意外と多いです。
焦らずに、その人が今苦しんでいることを解決してあげることを続けていくことが、精神科領域では重要です。
発達障害
2021.11.30