カウンセリング, 発達障害, 診察を受ける前に知っておくこと
「他の患者さんはどんなことを相談しているの?」「どんなことを医師に相談しても良いの?」ということについてお話しします。結論は「人によって違う」なのですが、年代ごとによくあるテーマがあるので網羅的に解説してみようと思います。解説するにあたって、マズローの欲求5段階説とエリクソンの発達課題をミックスして図を作ってみました。
先日、Kaienさん、心理士さんと話をしている中で、医療・福祉・心理の現場で同じ発達障害の方を見ていてもそれぞれが持っている課題感が違うことがわかりました。その辺りをどう共有しシームレスにしていくかを語り合い、情報交流をしていきましょうということになったのですが、情報交流の先に何を目指すのかというと理解とフィードバックだと思いますので、僕なりの理解をこの動画にしました。まだ自分で言語化できていない部分もあると思いますのでその辺りはご容赦ください。
コンテンツ
マズローの欲求5段階説
ピラミッドの下の段階にある欲求を満たしてからでないと次の欲求は生まれないという説ですが、臨床的には行ったり来たりします。「生理的欲求」とは寝る、食べるなど体に関する本能的な欲求です。「安全の欲求」はゆっくり休みたい、忙しすぎる、失業の不安などです。「社会的欲求」は友人関係等、「承認欲求」は仲良くした上で出し抜きたい、認められたいといったもの。「自己実現欲求」は上司から評価された上で自分のやりたい仕事をしたい、やりがいを求めたいといったことです。
精神科の医療が扱うものは、主に「生理的欲求」と「安全の欲求」に関することです。福祉の場合は「安全の欲求」に関することを扱います。障害があっても自分らしく働ける場所を探す、職場で生き抜くためのスキルを身につけるなど。カウンセリング(心理)は「社会的欲求」や「承認欲求」に関することです。どうしたら人と仲良くできるのか、認められるのか、認められなくてもそれを受け入れられるのかなどが中心となります。
「自己実現欲求」になるとはるかに難しい話なので、カウンセリングや医療とはまた違ってくるのかなと思います。もちろん僕は医師でありながら個人でもあるので、人としてのやりとりの中でアドバイスをできることはあるかもしれませんが、仕事としてやれているかというとそれはどうかというところです。
ただ、患者さん自身は自己実現欲求だと思っていても実は社会的欲求の問題だったり、承認欲求の問題だと言っていても実は安全の欲求の問題だったりすることもあります。自己実現欲求で悩んでいるとしたら、すごく合理化していて患者さんの見栄のようでもあるし、弱さを隠しているようにも思います。そもそも自己実現欲求で悩んでいるとしたら、精神科には来ずにもっと有益な場所に行くでしょう。医師は患者さんに共感するがゆえに対等に話してしまいがちですが、惑わされてはいけません。
年齢による違い
生理的欲求:「眠れない」ということでも、10代や20代では躁うつ病や統合失調症を疑いますし、50代だったらうつ病を疑います。40代以降ではガンの話題も出始めます。
安全の欲求:自立の問題だったりするのですが、20代や30代では仕事が本当にあるのかどうかなども話されますし、60代以降では遺産争いなどもあります。
社会的欲求:10代ならば友人関係、20代は恋人との関係、30代は結婚、40代は子どもとどう付き合うか、50代は職場、介護、子どもの自立、更年期など忙しいです。
承認欲求:20代、30代はやりがい、40代はお金、50代は社会的責任を果たすといったテーマに変わっていきます。
解決せずに進んでいく
よく思うのは、ある段階の課題が解決したから次に移るものではないということです。年齢に応じた課題はありますが、それは解決せずに進んでいきます。同じものを見ていてもテーマが変わっていきます。
社会や時代の変化もありますので、上の世代の成功体験が次の世代も応用できるかというとそうでもありません。少し前は20代で車を買うことが満足感に繋がったのが、今はそうではありません。親の世代が大企業指向でも子どもの世代は違います。この場合は親が心配しすぎて子離れできないこともよくあります。
よくあるテーマ
これだけ色々あれば十人十色だと言われそうですが、やはりよくあるテーマはあります。
まず、「親」的なものからの自立、上司のパワハラ、不倫の問題。不倫の場合は年上の男性と若い女性のケースが多く、男性の方が情報格差で勝ってしまうという狡さがあります。あとは同僚との距離感、仕事とは何か、恋愛、結婚、離婚、裁判(離婚、遺産等)、子育て、部下、教育の問題などです。
親からの自立というのはコントロールされる側の問題で、そこからどう逃げるか、どう自分らしく生きていくかというのが課題になるし、コントロールがなくなって自由になったときに、今度は何を生み出していくのかという課題があります。子育てや部下など教育する側になったときは、相手に不自由を強いながらもそれ以上の利益を与えるためにどういう風に振う舞うべきかという課題になります。加えて、死や老い、どうにもならない制限なども扱うことがあります。
カウンセリングでは、初めは親からの自立の問題だった症例が、恋愛→結婚→離婚の話になりパワハラの話になりと地獄めぐりのようにテーマが変わることもあります。ただ、ある1つの問題に固着することはありません。あったとしたら治療がうまくいっていないということです。「グルグル動きなら理解を深めていく」というのが臨床で何を話しているかの結論になりますが、一定のリズム感はあるので、多彩で多様で再現性がないように見えて、再現性があるという印象です。時には昔の人の言葉が活きたりもします。
患者さんはついつい視野が1点に集中してしまいがちですが、自分の人生を少し引いて見ながら今の問題に真摯に取り組んでいくことが大事です。
カウンセリング, 発達障害, 診察を受ける前に知っておくこと
2020.11.20