今日はクリニックの待合にも置いている、先崎学さんの「うつ病 九段」を紹介します。棋士である先崎さんがうつ病を経験した際の手記です。この本はうつの患者さんから「勉強になったので先生も読んでください」ともらったものです。(医者は患者さんによって育てられる面が多いにあります。)漫画になっていたので今回は漫画の方を読みました。すごく「うつ病らしい」のでイメージがつきやすいと思います。ただ、この本と違うから自分はうつ病ではないのか?というとそれもまた違います。この本が典型的なうつ病のパターンで、その変化形があるという感じです。
コンテンツ
著者・先崎学さんについて
1970年生まれ、青森の方です。1981年奨励会(内弟子3年)に入ります。中学の時には「将棋野郎」といじめられますが、めげずに将棋に打ち込んでいたそうです。そして、将棋指しにはご法度といわれる麻雀も覚えます。
1987年17歳でプロになり数々の勝利を収めますが、2017年7月47歳でうつ病を発症してしまいます。2018年6月に復帰されます。この2017年7月〜2018年6月のうつ病だった期間のことが書籍や漫画になっています。
お兄さんは精神科医で、いろいろなことを教え、先崎さんを励ましてくれます。ちなみに本の中では主治医はあまり登場しません。
先崎さん本人はどんな方かというと、行動力があり、柔軟な発想力があり、友人や家族にも恵まれたとのことです。将棋は超一流ですし、メディアに出て解説もし、本も書かれていました。将棋界ではテレビに出て解説するのはタブーだったようですが、新しいことにも果敢に取り組まれました。
ここで精神科医目線でいうと、「うつ病」というと弱い人、甘え、生真面目、神経質な人がなりやすいと思われているかもしれませんが、実際は違います。どんな人でもうつ病になる可能性があります。実際、先崎さんも弱い人ではなく行動力があり、いじめられても上手くかわす強さがあり、生真面目というよりは麻雀をやるような柔軟さがあり、友人や家族ともきちんとコミュニケーションのとれる人です。
発症から復帰まで
漫画は8話あり、発症から入院、退院、復帰までが描かれています。
自殺防止のためにお兄さんが入院先を手配しました。また、うつにとって散歩は薬なのだと言い、歩くことを勧めました。復帰してもトントン拍子で良くなるわけではなく波はあるのですが、少しずつ回復していきます。
本を書いたのはリハビリも兼ねているのですが、お兄さんに「うつ病に対する偏見はなくならない」と言われたこともあり、少しでもそれに立ち向かうべきではないかという気持ちもあったそうです。先崎さん自身、うつ病になる前から刑務所、リハビリセンター、老人ホームなどに出向き将棋をするといった活動もされていて、社会貢献の意識の高い方です。
ポイント
うつ病発症のころの思考停止、焦燥感、早朝覚醒、中途覚醒などの描写があったりとてもリアルです。教授回診の様子も面白いです。
こちらの本を読めばうつ病の経過のコアなイメージが持てると思います。ただ、注意してほしいのは先崎さんの場合は回復が早すぎるという気がします。ですので、自分はここまで早くないからといって焦ってはいけません。ご本人が「私は腕一本で人生を切り拓いてきた」と仰っているように、誇りや自信がありそれだけのものを積み上げてきた人です。我々はそこまで強くはないですし、うつ病を発症することで元々の弱さが増強されてしまうこともありますので、先崎さんは違うのだと思うことも大事です。
この本のテーマは、「絶対に自殺だけはいけない。うつ病は必ず治る病気なんだと伝えたい」ということです。これは本当にその通りだと思います。回復に1年以上かかるかもしれませんが、必ず良くなります。
必ず治る病気なのでそこは信じてもらいたい、理解してもらいたいと思います。