今日は「手が震える精神科の薬」について解説してみようと思います。
よく患者さんに「手が震えるのは薬の副作用でしょうか?」と聞かれます。実際、薬の副作用であることが多いのですが、どの薬かは皆さんご存知ではないです。診察室ではその場で言えますが、WEBなどで質問を受ける場合もあるので一度動画を撮ろうと思います。
手が震える副作用がある代表的な薬は抗精神病薬とリチウムです。
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抗精神病薬
抗精神病薬は主に統合失調症に出される薬です。ドーパミンをブロックする作用があります。
統合失調症以外にも躁うつ病の躁状態・うつ状態、自閉スペクトラム症の感覚過敏、せん妄や認知症の人の攻撃性に処方したりします。
ドーパミンが過剰に出ていると怒りっぽかったり、幻覚妄想が出たりします。それを抑えるのが抗精神病薬です。ただ、抑えすぎると当然副作用があり、それがパーキンソニズム、アカシジア、急性ジストニア、遅発性ジスキネジアと呼ばれるものです。
・パーキンソニズム
手が震えるのは何かというと主に「パーキンソニズム」です。
パーキンソニズムとは筋固縮(歯車様固縮)、振戦(手の震え)、仮面様顔貌(表情が固い)といったものでパーキンソン病と同じメカニズムです。抗コリン薬で改善されるので副作用止めとして出されます。
・アカシジア
座っていられない、そわそわする。ムズムズ感が気持ち悪くて自殺のリスクもあります。
・急性ジストニア
持続性の筋固縮
例)眼球上転、眼瞼痙攣、舌突出など
統合失調症の人で薬を飲んでいると目が上に上がってしまって困るという人が時々います。
・遅発性ジスキネジア
不規則な不随意運動、斜頸など
長く飲んでいると首が傾いてしまうことがあります。これは抗コリン薬が発症のリスクになります。
そのほかの副作用:
・高プロラクチン血症
プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)は母乳の分泌を促進する働きがあります。男性でも乳汁が出る、女性は生理が止まるなどがあります。
・過鎮静、認知機能低下
鎮静がかかりボーッとしてしまう
・高血糖、高脂血症、体重増加
・痙攣閾値低下:てんかん発作
痙攣が起きやすくなります
・悪性症候群:高熱、筋強剛(体が固くなる)、横紋筋融解症(筋肉が溶けてしまう)
悪性症候群はごく稀です
抗精神病薬は定型と非定型があります。非定型の方が新しくて副作用が少ないので、定型を使っているのであれば非定型に変えることが大事です。
リチウム
リチウムは双極性障害の人に使う薬です。作用は躁状態・鬱状態の改善、再発予防です。分類としては「気分安定薬」になります。
主な副作用は「手足の振戦」「口渇」「甲状腺機能異常」「胎児の心奇形リスク」になります。
採血をみながら血中濃度の調整をします。3ヶ月に1回は採血をすることが推奨されていますが、なかなかそこまでできません。一回血中濃度が安定すればそこまで採らないかなと思います。
ただ、リチウムの場合は血中濃度が有効血中濃度の範囲を超えなくても手が震えてしまう人は結構います。治療効果がある人ほど副作用が出やすかったりします。悩みどころです。抗精神病薬も同じで、副作用が出る人ほど効果も出やすいです。
副作用が出てもすぐ止めるわけではない
急性期は統合失調症であれば幻覚妄想が酷すぎたり、躁うつ病であれば躁が酷すぎたりうつが酷すぎたりしてなかなか治療のコントロールが難しいです。なので、多少副作用があっても抗精神病薬やリチウムを使い続けるのは臨床上よくあります。
副作用が出るからとすぐに止めるわけではないので、主治医の先生と相談しながら様子を見てもらえればと思います。
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リチウム添付文書
https://www.info.pmda.go.jp/psearch/PackinsSearch?dragname=%C3%BA%BB%C0%A5%EA%A5%C1%A5%A6%A5%E0