今日は「正しく不安と向き合う方法」について解説します。
大きい不安、小さい不安、深い不安、日常のささやかな不安などいろいろありますが、その不安と向き合うのが僕の仕事です。
向き合った上で解決に導けるものもあれば、導けずにただ一緒に不安を見つめ合うような臨床もあります。
ですが、少なくとも不安を向き合う人生を送っていますしそのプロではあるのかなと思っています。
今回は、治療上の不安への正しい向き合い方をお話しします。
これは僕が決めた、考え抜いたことではなく、いろいろなドクターが言っていることです。それを僕なりにアレンジしています。
かなり重要な話なので、できれば最後までご覧ください。古今東西のいろいろな思想家のエッセンスを取り入れています。
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STEP1 まずは書いてみる
不安と向き合う上で一番重要なことは「可視化する」ということです。
不安を言葉にして発散するだけでは実は弱いのです。言葉にした上で「目に見える形」にしないといけません。
さらに言えば、それを共有できる形にまで持っていかないとなりません。
これは難しいですし、それができれば不安なんかないよと仰るかもしれません。
そうかもしれませんが、「どうやったら可視化できるのか」を目指すのが正しい不安との向き合い方です。
認知行動療法もまさに可視化するものです。
疾患ごとに不安のあり方が違うので、精神科医のプロらしくまずはそちらを説明しようと思います。
代表的な疾患3つで説明します。
全般性不安障害
全般性不安障害は漠然とした不安があります。
特定の出来事(Event)というより、いろいろな出来事から不安になります。
ここで思考がストップしてしまうのが全般性不安障害で起こることです。
何が不安なのか、誰といると不安なのか、いつ不安なのかがあいまいです。
ですので、不安に対して「いつ、どこで、誰と、なぜ、どのように」を突き詰めていくことが大事です。
不安はたくさんありますが1個1個見える形にして、
Plan:プランを立て
↓
Do:行動し
↓
Check:検証して
↓
Action:また次の行動を起こす
このPDCAサイクルを繰り返します。
これを繰り返していくと、不安に対する基礎体力がついてきて不安を感じにくくなります。そして「なぜ不安を感じているのか」がわかるようになってきます。
薬物治療も大事ですが、このような作業も必要です。
これが可視化です。
社交不安障害
何かがあったときにすごく「恥ずかしい」という思いになります。
自分は変だと思われたのではないか、頭が悪いと思われたのではないかといった「過度の思い込み」によって恥を感じ、ますます緊張してしまいます。
認知行動療法のABC理論から説明します。
何かが起きた時に、本来感じる以上の不安を感じたり恥を感じたりします。
それを、「こういう思い込みがあるのではないですか、だから緊張してしまうのではないですか」ということをきちんと可視化します(スキーマ)。
その上で「暴露療法」を行います。
例えば人前に立つことが苦手ならば、
一人の前でスピーチ練習
↓
親しくない人の前でスピーチ練習
↓
五人くらいの前でスピーチ練習
などと段階を追ってやっていきます。
可視化した上で暴露療法を行うのが社交不安障害の治療です。
強迫性障害
何かがあると、
不安になる
↓
儀式をする
↓
落ち着く
↓
儀式をやめると不安になるからまたやる
これを繰り返します。
鍵閉め確認、手洗いなどの強迫や、行為依存症である摂食障害、ゲーム依存、アルコール依存、買い物依存などがあります。
・鍵閉め確認
不安→鍵閉め確認→家を離れるとまた不安→戻って確認
・摂食障害
不安→やせなければ→食事を我慢→やせる→落ち着く→やけ食い→嘔吐→反省・自責→不安→やせなければ→食事を我慢→やせる…
・アルコール依存
嫌な出来事→飲酒→落ち着く→嫌な出来事→飲酒→落ち着く…
これを繰り返していると、お酒がないと不安が解決できないのではないかと止まらなくなります。
これが強迫性障害や行為依存症の不安のメカニズムです。
なぜ可視化するのか
このように可視化することが大事なのは、「書かないと人間は認識しないから」です。
わかっていると思っていても、いざ「書いてください」と言われると、みなさん上記のように書くことはできません。
でも書けないのは普通のことです。
辛いことだから避けたい、見たくない、書きたくないことなのです。
ですが、それをやっていきます。
それが大事です。
別の立場で書いて、折衷案を採用する
不安を書いてみたら、次は「別の立場」でどう思うか書いてみます。
その上で折衷案を採用します。
例)なんだか不安
STEP1 まずは書いてみる
今日は職場で大事なプレゼンがある、上司の僕に対する評価は低いしうまくやっても怒られる。怒られたらまた胸がギュッとなる。あの感じはもう味わいたくない。嫌だ…
STEP2 別の立場で書いてみる
ギュッとなるかもしれないけれど、命を取られるわけではない。うまく行ったら上司はほめてくれるかもしれないけれど、どうせ怒られるだろうから適当にやってしまおう。上司もあと半年で異動になるだろうし。
→極端な逆の立場で書いてみる。
STEP3 折衷案を採用する
とりあえずプレゼンはやってみる。上司は文句を言うかもしれないけれど、5分でスマホのアラームをセットしておいてさも仕事の電話が来たかのように準備しておこう。
といった具合です。
いろいろなことがありますが、とりあえず書いてみてその折衷案を採用するというのが基本です。
STEP1が書けない場合
STEP1が書けない場合、2つの要因が考えられます。
・心理葛藤の問題
避けたい、抑圧といった無意識の作業、これは精神分析の話です。
何か避けたいといった心理葛藤があるのならば、カウンセリングなどで無意識を探る旅に出ないといけません。
例)幼少期の厳しすぎる親「こうしなさい!」のイメージが頭に残っている。
→ただ自分で書いてみるだけなのに、自由に書くことが許されないような気がする。
→変な書き方をしたらまた親に怒られるのではないかと漠然としたイメージが紐づいてしまっている。
などいろいろなパターンがあります。
・言語能力の問題
自分の気持ちが何なのかわからないといった言語能力の問題の場合もあります。
言語能力は人によって全然違い、作文を書けといってもすぐ書ける子供もいれば書けない子供もいます。
言語能力の問題で書けない場合は、カウンセラーに「あなたはこう考えているのではありませんか?」「あなたが感じているのはこういうことではありませんか?」とサポートしてもらうのが良いです。
STEP2が書けない場合
・別の立場で考えられない
別の立場で書くという想像力の問題、自由に書けない無意識の葛藤がある場合、カウンセラーの意見を採用してみるのも1つです。
カウンセラーの意見というのは「別の立場の意見」です。
カウンセラーは共感もしますが、別の立場の意見も言う人です。100%イエスマンではないカウンセラーの意見を採用してみます。
ただ、カウンセラーは「僕はこう思うよ」「あなたはこう考えているんじゃないの?」と言いますが、これを採用するのはなかなか難しいです。
診察室で僕が患者さんに「こう思っているのではないのでは?」「こうしてみたら?」と言うと、患者さんは「でも…」「そうじゃなくて、私はすごい苦しいんです、先生わかってください」という話になってしまい、ただ僕が「こう感じている」と言っているのが別の形に受け取られることがすごく多いです。
それは患者さんの心理葛藤だったり言語能力の問題だったりしますが、治療者に怖い親の像を投影している場合も多いです。そのためなかなか受け入れられないし、かえっ て傷ついたような感じがしてしまいます。
「そういう意見もあるのだな」と一意見としてとらえるくらいが正解です。
治療的なアプローチおさらい
ダーっと話してしまいましたが、もう一度まとめてみます。
不安と向き合うとは:
まずは不安を書いてみて、別の立場からも書いてみる。
そして折衷案を採用する。
これが治療的なアプローチです。
書けない場合:
サポートを入れてみる。カウンセラーの意見はあくまで一意見。
「別の立場の意見の代替案」として受け入れてみる。
ワークブックの活用
まず書いてみると言われても、どこから書いていいかわからない、たくさんあるからよくわからない、同じことを語ってしまいそう、ぐちゃぐちゃになってお手上げ、という人もいます。
その場合は、ワークブックを活用しましょう。
ワークブックを活用すればいろいろなことをもれなくできます。
「うつを治す◯日間ノート」なども販売されていますし、僕も無料で作っていますのでご活用ください。
https://wasedamental.com/director/cbt-workbook/
人生の7つの領域
健康、家族、友人・恋人、業務、キャリア・学び、趣味、お金
人生の7つの領域それぞれに対する不安や悩みがあります。
一度この7つの分野をもれなく考えてみると、どこに問題が多いのかがわかります。
とにかく一度書いてみて、それをまた書き直したり、加えていくという作業をしていきます。1回ではうまくできないので、何度も書いてPDCAサイクルを回していくことが非常に重要です。
今回は、不安と向き合うにはどうしたら良いか、正解は「可視化」という話をしました。
難しかったかもしれません。
基本的に、精神科の精神療法は、
1.しなやかな思考を持てるようにする
2.不安と正しく向き合う方法を学ぶ
3.世界を信頼する
この3つをマスターしていくことです。
マスタープランの2つ目について語ってみました。
前向きになる考え方
2021.7.1