今日は「気分の波が激しいです…。病気ですか?」という質問にお答えします。
初診の患者さんで と仰る方がいます。「双極性障害(躁うつ病)ですか?」「境界性パーソナリティ障害でしょうか?」「ADHDでしょうか?」などいろいろ調べて来られます。
病気かどうかを見分けるのは結構難しく、どのように医師が判断しているのかについて解説します。
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気分の波
気分の波が「脳の病気」としてバイオリズムのように変わっていくパターン(病気・障害)と、そもそも刺激に弱く、他者からの一言などによって気分が上下するパターン(病気・障害)があります。
例えば、「双極性障害(躁うつ病)」は躁状態とうつ状態を繰り返す病気ですが、こちらは生理的なリズムが狂ってしまうパターンです。
「境界性パーソナリティ障害」は対人的な刺激に弱く、気分の波が激しいパターンです。
生理的なバイオリズムに障害がある病気
・うつ病
原因不明、または些細な原因で落ち込みを繰り返す病気です。
落ち込んでいる期間が2週間以上というのが診断基準ですが、実際は半年、年単位など長い期間落ち込みが続きます。
・気分変調症
全体として気分は低めで、その中で波がある感じです。本人にとっては波が激しく感じるのですが、周りから見るとあまり変わっているように見えません。ですが、ずっと低い状態を維持しています。
落ち込む期間が2年以上続いていたりします。
・躁うつ病
うつエピソードと躁エピソードがある場合は躁うつ病(双極性障害)になります。
双極性障害はI型とII型があり、I型はいわゆる躁うつ病で、II型は躁状態が軽いものになります。
躁状態が4日以上続く場合は軽躁状態、1週間以上続く場合は躁エピソードと言います(実際はもっと細かく見ます)。元気な時は本当に元気で、バリバリ動きます。
・気分循環性障害
うつエピソードと躁エピソードを満たさないけれど波があるのを「気分循環性障害」と言います。
・月経前気分不快症候群(PMDD)
女性の場合、生理前に落ち込みやイライラが激しくなってしまうのを「月経前気分不快症候群」と言います。これも気分障害にカテゴリーされています。
「気分の波が激しいのですが、病気ですか?」と言った場合、上記のうちのどれかに当てはまるかもしれません。
刺激に弱く、気分の波が激しい
刺激に弱く気分の波が激しい人の場合、多いのはこちらです。
落ち込むからうつ病、波が激しいから躁うつ病ということではありません。
・境界性パーソナリティ障害
対人関係の過敏さがあり、刺激やストレスに弱い。そのため、気持ちのアップダウンが激しい病気です。
・発達障害(ASD/ADHD)
人間関係の機微がわからず落ち込んでしまう、自尊心を失ってしまう。一方で、ADHDの衝動性や多動性もあるので、人のことを無視できているときは活発なところが目立ってあたかも躁状態のように見える。
逆にASDの空気の読めなさで人からコテンパンにやられている時は、落ち込んで多動は落ち着きます。不注意によるミスが目立ったりもします。
・不安障害
もともと対人不安が強く些細な刺激に弱い人。
・依存症(アルコール、自傷、ギャンブル、摂食障害…)
刺激に弱く、人間関係の苦手さから物質依存や行為依存になってしまう。それが波のようになっていることがある。
これらは遺伝子的に決まっている部分もあるので、本人だけのものではありません。
どうしてもうつ病や躁うつ病などの気分障害だけが「病気」で、刺激に弱い方は「性格」だと思われがちですが、そんなことはなく両方とも精神医学的には病気・障害となります。
診断は難しい
刺激に弱い人は何か良いことがあるとアップしますが、元気な状態が4日以上続く、1週間以上続くということはないので、そのようなことで区別したりします。
ただこれもわかりにくく、診断は難しいです。患者さんから聞く話のすべてが正しいことでもありません。本人の主観も入っています。
結局は経過を見ないとわからなかったりしますし、入院しないとわからなかったというケースもあります。
正確に言うとわからないことはたくさんあるのですが、わからないながらもできる限り正解の診断に近づけていくことが大事かと思います。
今回は「気分の波が激しいです」という質問に対して、臨床的にはこう考えますということを解説しました。
個々の病気については別の動画を撮っていますので、そちらの方を参考にしてください。
躁うつ病
2021.8.12