今日は「発達障害の人の規則、こだわり、儀式」というテーマでお話しします。
発達障害にはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)があり、この2つは別の疾患と捉えられますが合併することが多いです。ですので、今回は「発達障害」という1つの括りで話します。
発達障害の人には、独特なこだわり、ルールや規則を過度に守る、逆に完全に無視する、また自分なりの儀式があるといった特徴があります。
これは疾患の特徴の1つで、家族や本人に説明するときに「これは1つの症状・特徴」と言って理解してもらうことが多いです。
実際、どうしてこのようなことが起きるのかというのは科学では説明がつきません。
医学上の因果関係はよくわかりませんが、こういうことなのではないかという仮説のような話はあります。
今回はネタバレにならない程度?に「シン・エヴァンゲリオン」の話を交えながらお話しします。
(映画を見た人の方がより今回の動画は楽しめると思います)
コンテンツ
情報の混乱・不安
発達障害の人の特徴として、情報の混乱・不安があります。
理屈はわかりませんが、色々な情報をうまく自分の中で(無意識的に)消化していくことが苦手だと言われています。
僕らならば、ぼけーっと歩きながら人を避けることもできますし、ぼけーっと会話をしながら相槌を打つこともできますし、相手に失礼のない会話をすることもできます。上司の話も聞いているフリができます。
このようなことが発達障害の人は苦手だったりします。
意識しないと処理できないので、処理できる量が限られます。
ですから、ただ普通に生活するだけでは、すごく混乱しますし、よくわからないと不安になってしまいます。
それから、人間にとって、一番情報密度が濃いものは「対人関係」に関することです。
人間が一番不安に感じることは、基本的に人間関係です。
相手の声色、動作から今何を考えているか類推しなければなりません。そのほかにも言葉の内容、文脈、過去、相手のポジションなど色々なことを考えながら動かなくてはいけません。
これを無意識的にパッと処理しなければいけないのですが、それがなかなかできません。苦手意識が強く、それが対人不安につながります。
情報をうまく扱えないので不器用な人が多いです。
知的な問題ではなく、運動や手先の器用さといったことでも障害が起きたりします。
また、情報の取捨選択が下手なので「音がうるさい」「匂いに敏感」など感覚過敏になります。
普通の人は雑音がある中でも会話を聞き取れますが、発達障害の人はすべての雑音を拾ってしまうので、ちょっとした音もうるさいと感じてしまうようです。
映画の中で碇ゲンドウ(主人公の父)も、情報の混乱があったり対人不安があったのだと告白しています。本人が告白しなくても人間関係が苦手なのはアニメ版の第1話からわかりますが。
情報の制限、ルール化する
情報の渦の中で混乱しているので、情報が入ってこないように「制限」します。
その結果、知識・興味の偏りができます。
またはあらかじめ「ルール化」をして、情報が入ってくるときに仕分けできるようにします。そうすることで混乱を防ぎ、不安から逃れようとします。
ですから、発達障害の人はピアノや知識という本の世界が好きな人も多いです。
そして規則正しい生活を送り、人を避けます。
碇ゲンドウは「息子と会わない」というルールを作っていました。
発達障害の人の細かいルールは、本人も説明がつかないし周りもよくわかりません。説明されてもよくわからないのですが、彼らにとってはすごくリアリティがあります。
周囲を巻き込み暴君化
これが本人だけの問題だったら良いのですが、周囲を巻き込みます。
権力があると暴君化したりします。たとえば家の中で絶対的である父親、パワハラをする上司など。
本人にとってはパワハラではないのですが、会社は利益を出さなければいけない、利益を出すためには残業をしてでもノルマを果たさなければ、と思い込み、結果、過度に相手を追い込んだりします。逆に相手をストーカーのように教育し始めることもあります。
ですが、時にそのこだわりが人を感動させることがあります。
良い映画ができる、ITサービスができるなど。
身近な人を傷つけるほどのエネルギーがなければ良いものはできない、というのも1つの事実です。それは演繹的ではなく帰納的な事実です。歴史を振り返ってみれば、あの作品もあの商品もあのサービスも、家族や身近な人は困っていたということは事実として蓄積されています。
これについては発達障害と攻撃性という動画も撮っています。
https://wasedamental.com/youtubemovie/4820/
シン・エヴァンゲリオンでいえば、碇ゲンドウはラスボスですから暴君化で正しいと思います。
パートナーによって安定化
作品の中でどのように解決を迎えたのか、どうしたら彼の魂は救われたかというと、単純なのですが「パートナーができる」ということです。パートナーによって安定化するのです。
もともと混乱していたのが大学時代の恋人と結婚して安定し、でもその奥さんがいなくなってしまってまた暴れだしたという話です。主人公のシンジも恋人ができることで安定し、庵野監督自身も結婚して安定化したと言われています。
「千と千尋の神隠し」でいうところの銭婆とカオナシの関係です。
歳の差カップルでも良いのです。
すごいパワーがあるから周囲も巻き込んで大変なことになるのですが、たった一人のパートナーができると案外収束するのはよくある話です。
臨床していてもそういうことは結構あり、だいたい恋人ができると臨床がうまくいくことも多くあります。
我々の臨床やカウンセリングは知性に訴えかけていますが、知性よりも発達障害特有のこだわりの方が強いですし、それよりも性欲の方が強いです。
今までやっていたことは何だったんだと思うことはあります。恋人ができると治療の流れが180度変わってしまうこともよくあります。案外そんなものです。
臨床というのはそういうもなんだなと思います。
この「パートナー」も感情的な面ではすごく安定していたり、謎のポジティブシンキングだったり、彼らの混乱に右往左往しないなどある種の条件が必要になります。
臨床では細かく修正をしながら、良い出会いがあればそこで治療がグッと進むということはよくあります。
発達障害
2021.8.19