今日は「認知行動療法の基本」について解説します。
この動画を見ることで認知行動療法がだいたいわかります。この動画を見てからいろいろな認知行動療法の本を読んでいただく方が、全体像を理解しやすくなると思います。
他の心理療法とどう違うのか、普段のビジネスや研究などとどう違うのか、などもわかりやすく説明したいと思います。
コンテンツ
困りごとがあったとき
困りごとがあった時に僕らはどのように解決しているか、ロジカルに考えてみます。
困りごと
→命題の選出
→場合分け
→吟味
→行動
何か「困りごと」があった時、僕らはその中から「命題」の選出をします。
そして、それに対して「場合分け」をし、それらを1つ1つ「吟味」して「行動」に移す、ということをします。
例として僕の場合を挙げます。
《困りごと》
「YouTubeをやっている精神科医として良い感じでやりたい」
これでは問題がよくわからないので何か1つ決めます。
《命題の選出》
「動画の平均視聴回数を増やしたい」
平均視聴回数を増やせば登録者数や広告収入も増えるので、編集の佐脇さんに渡せるお金も増えます。そうすると皆ハッピーで僕もハッピーになると、そんな感じです。(佐:ありがとうございます!)
《場合分け》
分け方は何でも構いません。
サムネイルの作り方、動画の長さ、企画・内容、テロップの量、twitterでのアナウンス、など漏れなく書き出し、1つ1つ吟味していきます。
《吟味》
場合分けしたものに対し、メリット、デメリットを検討します。
「サムネはもっとこうした方が良い」
→「でも時間がかかる」
「企画の立て方はどうすれば? アナリティクスを参考にするの?」
→「時間がかかりすぎて大変」
《行動》
吟味していった中から、やれることを選びます。
次の動画からはテロップを増やそう、益田が元気な休みの日に多めに動画を撮ろう、などの行動を取ります。こうすることで、命題が解決するように導きます。
その結果、視聴回数が増えているのか減っているのかの振り返りをして、またプランを練り直します(PDCAサイクルを回す)。
心の悩みだけではなくビジネスや研究など、あらゆる脳の知的活動でこのような流れをたどります。
これを自分の心の悩みでも応用できるのでは、というのが認知行動療法の考え方です。
認知行動療法はビジネス的、研究的な要素があり、患者さんにも「科学者のような気持ちで当たってください」と説明したりするのは、こういう背景があるからです
ABC理論
認知行動療法の「ABC理論」を解説します。
A:Active Event(出来事)
B:Belief(思い込み)
C:Consequence(感情・行動)
何かの出来事(A)があった時に、悲しくなるとします(C)。
それは、その間に思い込み(B)があるから不適切に落ち込んでしまうのではという理論です。
人間はAからCにすぐ行ってしまうものです。
上司から「お前はダメだ!」と怒られたら、「ああ、もう嫌だな。俺って最低なんだろうな」となってしまいます。それが積もり積もるとうつになってしまいます。
そうではなく、途中にある「思い込み(B)」をもう少し明確化して、無意識にやっていたことを吟味してから落ち込んだ方が良いのでは、ということです。
これが認知行動療法の基本です。
認知の歪み
何かの出来事があってある感情になった時、その「間」を書き出してみようということになります。
でもこれはなかなか難しいのです。
「どうして自分は落ち込んだのか?」→「上司に嫌われていると思ったから」など書き出しますが、なかなかもれなく書くのは難しいことです。書いている内容が建設的ではない、または治療に発展しにくいテーマを選んでしまうこともあります。
そこを専門的な知見を持ってテーマを選びをします。
例えば、思い込みや白黒思考(認知の歪み)が強いとき、命題を「自分は上司に嫌われているのではないか」として場合分けをして行っても、吟味の仕方のときに白黒思考が出てしまうことがあります。
例)「自分は上司に嫌われているのではないか」
→「成績が悪いから」
→「愛想が悪いから」
→「上司は若い女性しか好きではない」
→「上司は若い男性は大嫌いだ」
など色々と出していきますが、ここで白黒に分かれすぎる人がいます。
「上司は若い女しか好きではない!男は嫌いだから僕は嫌われる!おしまい!」となってしまうと、それは極端です。
女じゃないから嫌われるというのは安直すぎませんか、白黒思考すぎませんかと言ったりします。
また、「スキル不足」のこともあります。
分け方や上司とのコミュニケーションの方法が抜けていることもあるので、そのようなことも補ったりします。
どの問題を扱うか?
悩みの中でどの問題を扱うのか、どのような命題をカウンセリングの中心に据えるのか、ホームワークの中心に据えるのかはセンスが問われます。
何でもかんでも悩めば良いものではありません。時間は有限です。
心の悩みを解決していくために、自分の考え方を訂正していくために、認知の歪みを直していくために適切なテーマがあります。
例えばサッカーが下手だという時、何をすれば良いかは人によって違います。
リフティングや走り込みなど何でもかんでもやれば良いということではなく、その人に合ったトレーニングをした方が上達します。
これと同じで、その人にあったテーマを扱った方が良いので、テーマ選びはプロの方が得意かと思います。
どのフレームを利用するか?
どの「フレーム(考え方)」を利用するのかもプロが考えた方が良いです。
「サッカーが下手」というときに、どうしてこの人は下手なのか、どうしてプレーヤーとして弱いのか、チームに貢献できていないのかについて、「ここがこの人の弱点だな」と吟味する人がいるわけです。
その上で、どのような練習をしたら良いのかを考えます。
それは心の問題のときも同じです。
問題の焦点の当て方、当てた上でどのような考え方のパターンに持っていくのかは治療者の腕の見せ所かと思います。
他の心理療法は?
では、精神分析など他の心理療法と何が違うかです。
命題の選出をする際に、「どこに問題があるのか、自分で決めなさい」というのが精神分析的です。
患者さんが自由連想法で喋ったことを扱っていくのが精神分析なので、この命題の選出から患者さんに任せられたりします。
認知行動療法では、命題の選出は一緒に話し合うことになっていますが、治療者側である程度やってあげることが多いです。
どのような問題が起きているのか、その歪み方を指摘してあげるのも認知行動療法らしいところです。
指摘をせずに、関係性の中や応用技で伝えていくのが精神分析っぽいかなと思います。
認知の歪みで「そもそもテーマ選出が悪いよね、そのテーマを選んだというのはあなたの欲望だよね」と、話題選びから突っ込まれてしまうのが精神分析かなという気がします。
最後は余談でしたが、今回は認知行動療法の基本について解説しました。
認知行動療法
2021.8.28