今日は「アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)」について解説します。この薬は躁状態、うつ状態、統合失調症、発達障害の過敏性・攻撃性にも効きます。使いやすいのですが、この薬は結構特殊で説明がしづらく、診療でも上手く説明できた感じがしないので動画に撮ってみます。
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アリピプラゾールとはどのような薬か
アリピプラゾールは一言で言うと「ドーパミンの部分アゴニスト」です。ドーパミンは脳の神経伝達物質で、これが多すぎると幻覚妄想状態になり、少ないとうつになります。これを部分的に刺激してあげるということです。スイッチをONにするのが「アゴニスト」で、反対にOFFにするのが「アンタゴニスト」です。
通常の統合失調症の薬は、ドーパミンが多いのをOFFにする薬を出すのですが、OFFにしすぎるとパーキンソン症状などの副作用が出ます。そのため量の加減が難しいです。アリピプラゾールは完全にブロックするのではなく、ちょっと刺激してあげるものなので、副作用が少なくて良いのではないかという薬です。
より詳しく説明すると
神経は、受容体があって(くっついて)→電気信号が走って→神経伝達物質を排出して→次の神経が伝達物質を受けて…ということをしています。
通常は、ドーパミンがドーパミン受容体にくっついてドーパミンを放出します。これは100%アゴニストです。
アンタゴニスト(抗精神病薬)であれば、ドーパミンがくっつかないようにブロックします。それによって排出される伝達物質が少量になります。
部分アゴニストの場合は、ドーパミンをブロックもするのですがスイッチのONボタンもあります。ですので、たくさんは出ないのですがほどほどに排出されます。
それならばアリピプラゾールだけ飲んでいれば良いのではと思われるかもしれませんが、それほど単純なものではありません。アリピプラゾールをたくさん飲んでいると完全ブロックの方に近づいていってドーパミンが出にくくなりますし、少ないと放出量が増えてしまいます。ここら辺はとてもややこしいです。
僕はいつも経済に例えます。どこかのコンビニが大きく儲ければスーパーの儲けが減る、かといってスーパーにお金を投与したら他のところが困るなど複雑なのです。
疾患ごとの投与量
・統合失調症
たくさん入れるとドーパミンブロックが激しくなるのでドーパミンが減り、少量だとドーパミンが増えるということなので、統合失調症の場合は6〜24mg使います。幻覚・妄想がひどい場合は24mg使います。
・躁状態
躁うつ病の躁状態が激しい時は12〜24mg使います。増強療法としても使うので、他の薬に足す場合もあります。
・うつ状態
うつ状態の時には3mg前後を使います。
・ASDの過敏性、攻撃性
ASDの過敏性、攻撃性に対しては6mg以内かなと思います。
患者さんの体型、体質にもよりますので少しずつ調整していきます。
この辺は臨床家としてセンスが問われるので、アリピプラゾールの使い方が上手い人は臨床家としてセンスがあるのでしょう。
副作用
・ムズムズ
アカシジアと言ったりしますが、ムズムズすることは他の抗精神病薬でも出やすいです。そのため単純なうつの人にはなかなかアリピプラゾールは使いません。少量の時の方が起きやすいです。
・パーキンソン病:手の震え
たくさん使っていると、今度はパーキンソン症状が出てきます。手が震えたり、表情が動きにくいなどです。
・ふらつき、低血圧
・吐き気、便秘
レキサルティ
アリピプラゾールは大塚製薬が開発した薬ですが、特許が切れてもっとパワーアップした薬も出ています。それがブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)です。こちらは統合失調症に使います。用量の幅は1〜2mgです。躁やうつに使うためには臨床家の意見がまだ揃っていないように思います。
まとめ
患者さんで、うつの時にアリピプラゾールを少し足したら良くなったから増やしてくださいという方がいますが、それは違うんですよというのはこういう理屈です。増やすとドーパミンブロックが働いてしまいます。皆さんここがなかなかイメージしにくいと思います。
【参考】エビリファイ 添付文書
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1179045B1021_1_34/